海外で活躍するプロの通訳者に聞いた、英語で通訳がうまくなる勉強法とコツ8つ

通訳者としてフィリピンで26年間ご活躍の、下地英文(シモジヒデフミ)さんに、通訳になるための勉強法や通訳のコツを教えていただきます。

駆け出しのころは、失敗の繰り返し

こんにちは。フィリピンで通訳をしている下地英文です。フィリピンに住んで29年になりますが、常夏のフィリピンは、みんなとても明るく、フレンドリーで、家族をとても大切にする国です。フィリピンでは仕事よりも、子どもの学校行事が優先される風潮があり、学校行事がある日は、当たり前のように仕事を休みます(笑)。仕事を休むたびに収入に響くのがつらいところです。

本記事では、私がよい通訳をするために普段から心がけていることをお伝えしたいと思います。

英語がペラペラに話せるようになりたい!しかし、当時の私にはアメリカやイギリスへ留学するお金がありませんでした。そのため昼夜を問わずアルバイトで働き、お金を貯めて、22歳のときにフィリピンに英語を勉強しに来ました。

マニラ市のマラテにある「SPEECHPOWER」という英語のスピーチに特化した学校に通いました。学校に通ううち、友人などからの紹介で、簡単な翻訳や、アテンド通訳のアルバイトをするようになりました。そのとき、「これはひょっとしたら自分の一生の仕事になるかもしれないな」と思いました。

しかし、最初のうちは全然思うように通訳ができず、失敗ばかりでした。「一流の通訳」になりたくて、 会議通訳の第一線で活躍していたフィリピン人の通訳の人に教えを乞いながら、通訳のアルバイトをこなしては失敗し、また勉強し、また失敗の繰り返しでした

いい通訳者になるためのコツ

1.文化の違いを知れば、いい通訳ができる

通訳は、「異文化間の橋渡し役」だと思っています。言葉ができるから通訳ができると思われる方が多いと思いますが、実は、そうでもないんです!日本の文化、そして相手の国の文化を分かった上で、訳さなければ、言葉通りに訳してもなかなか通じないこともあるのです。

例えば、「リンゴ」という日本語を「アップル」という言葉を使わずに訳せと言われた場合、大抵の日本人は「赤い果物」と言うでしょう。しかし、アメリカや欧州などの場合、リンゴは必ずしも赤いというイメージはなく、グリーンであったり黄色であったりします。その文化の違いを知らずに、日本の文化だけで、言葉通り訳しても通じないのです。ですが、この「リンゴ」を「アダムとイブの禁断の果実」と訳せば、おそらく世界中の人に伝わるでしょう。 

文化の違いから生じるちょっとした誤解が、対話の結果を左右する大きな要因にもなりかねません。当事者同士がお互いの文化の違いにも気付かないほど、スムーズに会話が運ぶような、そんな通訳ができたときは、たとえ誰にも評価されることはなくても、通訳をやっててよかったと思う瞬間です。

2.相手の英語のレベルに合わせた言葉を選ぶ

通訳者は、速く話したり、イディオムやビッグワード(難しい単語、抽象的でいろいろな解釈を生んでしまうような言葉)を駆使して 自分の英語力を見せびらかそうとしてはいけません 。理解されない 可能性があるからです。あくまで当事者間の会話がスムーズに進むように最大の配慮を施すことが大事です。 通訳がゆっくり話していたり、中学生程度の英語でしか話さないからといって、その通訳のスキルを決定するものではない のです。

フィリピンは今、外国から進出している企業が多く、とりわけ製造業が盛んです。フィリピンに拠点を置く日系企業には、アメリカの企業や、英語を第一言語としない欧州、中国、韓国、シンガポール、インド、台湾の企業から製造現場の監査などにやってくるので、いろいろな国の人たちとやり取りすることも多く、使われる英語のレベルもまちまちです。

こういった人たちと、英語でやりとりとする場合、相手の英語力を 判断 して訳出をします。 話をよく聞き、使っている単語や発音などから、英語のレベルを判断して、相手のレベルに合わせた英語 を使います。

反対に、アメリカ企業など、英語圏の人たちに通訳する際には、違った面で気を使いますね。例えば、会議室に入って来て、日本側が「どうぞおかけください」と言ったとします。それを Please sit down. なんて言ってしまったら、「頼むから座ってくれ」みたいな響きになります。 そこは、Please have a seat. などのように言います。

3.徹底的に情報収集をする

私は今、日系企業と専属契約 を結んで仕事をいただいているので、社内通訳と同じで、その会社で使われる用語は、ほとんど熟知しています。それでも大切な監査や報告会のときには、しっかりと準備をしていきます。

フリーで通訳をしているときは、1つの通訳の仕事にかける割合は、準備が9割、現場1割と言えるくらい、徹底的に準備をしました。トピックに関する予備知識を持ち、専門用語を理解しておくのはもちろんのこと、当事者の経歴、人となり、その人が所属する企業が掲げている理念など、できる限りの情報を集めたものです。そういった 背景なども理解していないと、話の流れや話者の意図が分からず、迷子になってしまうことがある からです。

例えば、映画館に行って、今まで見たこともない映画を、ストーリーの途中から見たとします。それぞれの俳優が言っている言葉は理解できるかもしれませんが、ストーリーを最初から見ていないと、なんのことを言っているのか、またどんな思いで言っているのかさっぱり分からないことがありますね。それと同じことが起こるのです。

4.特殊分野にも対応できる知識を身に付ける

最近は、英語ができる日本の方が本当に増えてきたので、フィリピンでは、日英の通訳の仕事の依頼は昔ほどありません。フィリピン人は基本、英語ができますから、通訳を必要としませんし、フィリピンにいる日本人も大体英語ができる方たちですから、英語の通訳を必要としません。

そんな中、 医療通訳や法廷通訳など の特殊分野には需要があります。医療通訳では、11時間に及ぶ手術に立ち会ったり、法廷通訳では相手側の弁護団から、通訳としての能力を検証するための尋問を半日に渡って受けたりしたこともありました。ストレスは半端じゃありません。しかし、報酬もその分半端じゃありません。

また、 日系企業の社内通訳 となって、その分野の専門知識を身に付けていくなど、これからは通訳もどんどん細分化されていくと思います。

通訳のスキルを上げた勉強法

もう通訳者になって25年以上になりますが、いまだに自分に100点を付けられる通訳ができたことはありません。毎回毎回、「あの場面は、こっちの訳の方がよかった」と思ったりしてます。絶対に、 完全な通訳ができないからこそ、この仕事は面白い のでしょう。ここからは、通訳初心者だったころの勉強法と、通訳者になった今でも続けている勉強法を紹介します。

1.毎日新聞に必ず目を通す 

仕事柄、英語ばかりに接しているので、日常では英語なんて見たくもないというのが本音ですが、毎日、新聞には必ず目を通しています。全部の紙面は無理ですが、それでも1日に最低1時間は新聞を読むようにしています。

経済、社会、文化の紙面に目を通しておくと、それが通訳の現場で役に立つ ことが結構あるのです。今は、自分の英語力を磨くことよりも、そういった世界情勢や経済などを 把握する ことが私の通訳の一番の勉強です。

2.まずは単語の暗記、次に小説を原書で読む

駆け出しのころは、とにかく単語を暗記しました。単語が分からないと、どうしようもないですからね。次に、英語の小説を原書で何冊も読み込みました。すると、 文脈で意味をつかむことができる ようになってきました。 通訳のときに、聞き取れなかった言葉があったとしても、話の流れをつかんでいれば、問題なく訳出することができ、 パニックになりません。

3.シャドーイングを徹底的に

シャドーイングは通訳者にとって、いわゆるアスリートが行う基礎体力訓練みたいなものですから、徹底的にやりました。 アスリートにとっては、腕立て伏せや、腹筋、スクワットみたいなものです。

しかし、このシャドーイングは、慣れるまでは大変手ごわいものでした。 初めて聞くスピーチなどを、言葉通り、2語3語、後を追いかけながらそっくり真似するトレーニング なのです。

日本のニュースを見ながら、日本語でシャドーイングを試してみたら、きっとこの難しさが想像できると思います。初めのころは、日本語でもできなかったのですから、英語のシャドーイングなんてできるわけがありませんでした。

しかし、 通訳者はこのシャドーイングを、夢に出てくるくらいやり込んでいます から、初めて聞くニュースなんかでも、1、2分間位ならできてしまうのです。

もともとは通訳者のトレーニングの手法であった、このシャドーイングは、英語学習の教材にも取り入れられるようになりました。はじめは、テキストを読んで、音声を何度も聞いてからシャドーイングをするところから試してみてもよいと思います。

そのステップを超えたい方は、ぜひ、通訳者が行う本物のシャドーイングに挑戦してみてください。

シャドーイング用の教材は、はじめは日本語で十分です。NHKのニュースなどがいいでしょう。日本語でできるようになったら、次は英語にチャレンジしてみましょう。

英語の場合、教材は自分に合ったものがよいのですが、聞いて内容が分かるものを選びましょう。Podcast で BBC や CNN のニュースなどがおすすめです。 

4.実践して度胸を付けよう

いろいろ偉そうなことを言いましたが、私は英検も持ってませんし、TOEICなんて受けたこともありません。辞書の単語を一つ一つ暗記し、小説を原書で読み、BBC などのニュースでシャドーイング。あとは全部実践でスキルを上げてきました。

通訳のスキルを身に付けるのは、なんといっても実践です。もう、これしかありません。エージェンシーなどに登録したり、ボランティアなどで通訳の案件をもらい、失敗を恐れず、とにかくどんどん現場をこなしました。この経験によって知恵や度胸がつきました。

語学留学はフィリピンを選び、教材にもそれほどお金をかけませんでしたが、通訳の仕事に生きがいを感じ、26年間通訳の仕事に従事しています。私がなれたのですから、通訳者になりたいと思う方なら、きっとなれると思います。

通訳には、訳した一言一言すべてを「相手に届ける」使命があります。例えば「うーん、まあそうですねー」の、「うーん」までも、訳した瞬間に大事な言葉になり、相手に理解されるのです。このように、通訳には一切無駄がありません。このような素晴らしい仕事は他にはないと感じています。

下地 英文(シモジ ヒデフミ) 
下地 英文(シモジ ヒデフミ) 

名古屋市生まれ。22歳で渡比。会議通訳で活躍するフィリピン人のもとで下積みをしながら、様々な通訳の現場をこなす。派遣された日系企業から請われて通訳の専属契約を結び、現在に至る。

編集:増尾美恵子

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