セリフを訳すとはどういうことか?正確に訳すための3つのポイント【洋画・海外ドラマの翻訳】

英語を学んでいる方の中には、洋画や海外ドラマが好きな人も多いはず。そんなあなたはこのセリフ、どう訳しますか? 本記事では、映像翻訳スクールを運営する三村拓史さんが訳例の数々と、セリフの翻訳における大事な3つのポイントを紹介します。

このセリフ、訳してみてください

突然ですが、次の英語のセリフをあなたならどう訳しますか?

A:Thank you. Today will be my unforgettable day.
B:It’s my pleasure.

初めまして。洋画・海外ドラマの魅力を日本中に届ける人を育成しつづけて17年、映像翻訳スクール代表の三村拓史と申します。

今回から6回にわたって、洋画・海外ドラマの翻訳の楽しさや難しさ、翻訳するコツなどをお伝えしていきます。洋画や海外ドラマが好きで、英語の学習にご興味のある方でしたら、楽しんでいただける内容になると思いますので、ぜひ読んでみてくださいね。

さて、冒頭に突然お尋ねしたセリフの翻訳。考えてみていただけましたでしょうか? 既に考えている方、その積極性、とてもすばらしいです。お一人ずつ、どのように訳したか聞いてみたいのですが、それはさすがに難しいので、私のほうで推測してみますね。

訳例紹介と3つの大事なポイント

おそらく、こんなふうにしたのではないでしょうか?

(訳例1)
A:感謝いたします。今日は二度と忘れられない日になります。
B:そう言っていただき光栄です。

(訳例2)
A:ありがとうございます。今日は私にとって忘れられない1日になるでしょう。
B:それを聞いて、私もうれしいです。

(訳例3)
A:ありがとう。今日は忘れられない1日になるわ。
B:それはよかった。

(訳例4)
A:ありがとう。忘れられない1日になるよ。
B:よかったわ。

(訳例5)
A:ありがと。今日のことは忘れないよ。
B:いいのよ。

(訳例6)
A:サンキュー。今日のことはまず忘れないよ。
B:よかった。

ざっと書いてみましたが、この中にあなたが考えた訳に近いものはありましたか? おそらく、9割くらいの人の訳は網羅できているのではないかと思うのですが・・・。

さて、全部で6つほど訳を書き出してみましたが、少し不思議ではありませんか? というのも、元の英文は1つなのに、なぜ訳文は6つにもなるのか?

実は、それがセリフを翻訳する際の大事なポイントでもあります。詳しく紹介していきましょう。

ポイント1:話し手の人物像

6つの訳文をご覧いただくと分かると思いますが、話し手がそれぞれ違いますよね。男性らしき人もいれば、女性らしき人もいますし、年配らしき人もいれば、若者らしき人もいます。丁寧な話し方の人もいれば、軽いノリの話し方の人もいます。

セリフを訳す際には、話し手がどういう人物なのかが分からないと、口調などが決まりません。そのため、冒頭の英文を訳す際、無意識のうちに話し手の人物像をイメージしているのです。

従って、性別、年齢、口調などが人それぞれ異なり、さまざまな訳ができあがります。

ポイント2:聞き手との関係性

セリフを訳す際に無意識にイメージするのは、話し手の人物像だけではありません。

聞き手との関係性もイメージしています。話し手が男性の場合、聞き手が男性か女性かでは、少し言葉遣いが異なりますよね。また、話し手が同じ男性でも、聞き手が若者の場合と年配の方の場合では、やはり話し方が異なると思います。

ポイント3:話し手の置かれた状況

話し手と聞き手との関係性だけでなく、話し手の置かれた状況もイメージしています

このセリフを発したのが、たくさんの人が参加するパーティーの席で、全参加者に向かってスピーチをするのであれば、自然と丁寧な口調になりますよね。一方、男性が恋人の女性にサプライズプレゼントをしたのであれば、どちらも親しい口調になります。

このように、セリフを訳す場合には、話し手の人物像と聞き手との関係性、置かれた状況を無意識にイメージしているのです。

話し手の人物像、聞き手との関係性、状況が決まって、初めてセリフを翻訳することが可能になります。従って、英語のセリフを与えられて翻訳する場合、話し手の人物像、聞き手との関係性、状況は無数に考えられるので、いくつもの訳が出てくるのです。

同じセリフでも訳し方は無数にある!

せっかくなので、少し変わった訳も紹介しますね。セリフを訳す場合には、話し手の人物像、聞き手との関係性、状況の3つが必要になりますので、以下のようなパターンで考えてみます。

  • 話し手:不良A
  • 聞き手:不良B(不良Aと犬猿の仲)
  • 状況:不良Bの策略がうまくハマり、不良Aは他の不良仲間から見放されてしまう。孤立した不良Aを、不良Bとその仲間が取り囲んでいる。

このような状況だと、同じ英文でも今までとは異なる訳になりそうですよね。皆さんも上の状況で、先ほどの英文を訳してみてください。

不良A:Thank you. Today will be my unforgettable day.
不良B:It’s my pleasure.

試しに私が訳すなら、こうなります。

不良A:ありがとよ。今日のことは一生忘れないぜ。
不良B:ざまあねえな。

今までの訳とはだいぶ違いますね。でも、話し手の人物像、聞き手との関係性、状況を考えれば、こんな訳になるのも納得いくはずです。

このように、話し手の人物像、聞き手との関係性、状況しだいで、同じセリフの翻訳でも訳し方は無数にあります。そして、この3つの要素がセリフを翻訳する上で大事なポイントになります。

おそらく、セリフを翻訳する際には、誰もが無意識のうちにこの3つの要素を踏まえて翻訳をしていると思います。もちろん、それでも翻訳はできるのですが、無意識にしていることを意識的に行うことで、より上手に自然に訳せるようになります

そのため、無意識に考えていることを意識していただきたくて、冒頭の英文の翻訳に取り組んでいただきました。少しでも楽しんでいただけたなら、とてもうれしいです。

次回は、この3つの要素を踏まえて、自然な日本語に翻訳するコツをお伝えする予定です。

では、またお会いしましょう!

三村拓史(みむらたくし)
三村拓史(みむらたくし)

キネマ翻訳倶楽部スクール代表。大学4年生の時に書店で見つけた「なりたい!!翻訳家」(大栄出版)を読んだことがきっかけで、字幕翻訳家を志す。大学卒業後、大手の映像翻訳スクールに3年以上通うものの、プロの字幕翻訳家にはなれずに中退。その後、スクールの先生が個人的に主宰している勉強会に参加し、書籍やスポーツ番組などの下訳を経験。その先生の紹介で、人手不足の映像翻訳会社(スクールの運営会社)に入社。約17年間で300本以上の洋画や海外ドラマの字幕翻訳、字幕リライトに携わる。プロの字幕翻訳家が書いた字幕をチェックした数は、500本以上。

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