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決定のプロセスを効率化するには【谷本真由美のグローバル視点の働き方】

グローバル視点の働き方

プロジェクトのスケジュールを決めるにも、日本と海外ではかける工数に大きな差が出ることがあります。例えば、決定のために関係者を集めて会議をする場合、どの部分で違いがあるのでしょうか?『国連でも通じる 世界の非ネイティブ英語術』や『世界でバカにされる日本人―今すぐ知っておきたい本当のこと―』など著作多数、Twitter で @May_Roma(めいろま)として6万5000人近くのフォロワーがいる谷本真由美さんに、具体的に教えてもらいましょう。

この連載「グローバル視点の働き方」の前回記事はこちら。

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日本のやり方は、効率が悪く、生産性も低い

日本人が海外で働く場合に大問題になるのは、実は効率の悪さです。

「え、日本人は効率が世界で最も良いんじゃないの?」と驚かれる方がいるかもしれませんが、日本は長時間労働で超有名で、ホワイトカラーの生産性は先進国で最も低いのです。つまりこれは仕事の効率が悪いということです。

生産性の低さをよく表しているのは長時間労働です。日本以外の先進国では、よほど厳しい職場を除いて、定時で退社するのはごく当たり前です。ただし、投資銀行やコンサルティングファームなど、専門性が高く仕事の成果の要求度も高い職場の場合は、長時間労働する場合もあります。しかし、そういった仕事は社会のおそらく5パーセント以下でしょう。また、消防や警察といった仕事も長時間労働になることがありますが、これらはあくまで特殊な仕事です。

日本と他の先進国をもう少し詳しく比較してみましょう。

海外では、業務量が少ないので、残業しない

まず、そもそも、定時退社が当然の職場では、日本の職場に比べると仕事が少ないというのは事実です。

しかし、企業の年次報告書や経営者のデータを見ますと、仕事の量が少ないからといってアウトプットが少ないというわけではありません。つまり、日本の同業種に比べて、より少ない作業で同じような結果を得ているということです。もちろん、品質や顧客の満足度といったものに違いは出てきますが、大まかなところでは日本よりも圧倒的に少ない作業で仕事をこなしているわけです。

日本の職場よりも作業が少なくなる理由は、結果を得るのに必要なこと以外は省いているからです。

無駄な作業が多い、日本のスケジュール調整

プロジェクトのスケジュールを決める作業を例に、日本とイギリスの組織でのやり方を見てみましょう。

日本の多くの職場では、議論するための資料をまず作ります。パワーポイントやワードに細かい字でたくさんの情報を詰め込み、場合によってはイラストなどを入れて作成します。

そして、それを関係者にメールで送付するだけではなく、会議の当日には全て紙に印刷して、席に一部ずつ置くことが多いでしょう。

また、関係者全員のスケジュールを確認できるシステムを社内で導入していない場合には、出席すると思われる人全員にメールを送って、出欠を確認します。出席者の中には、実際に決定する人だけではなく、オブザーバーと呼ばれる単に進行を見守る人もいます。とりあえず多くの人に出席を依頼するので、参加人数が多くなります。出欠確認はメールでするので大変ですし、会議室の予約を何度もやり直したりすることもあります。

いざ会議が始まると、誰も意見を言いませんので、沈黙する時間が続くこともあります。1回の会議では決まらず、何回か会議を開いて、やっとプロジェクトのスケジュールがまとまります。リーダーシップを発揮する人がいないので、誰が決めるかということが分かりにくいわけです。

このように、資料の作成から参加者の調整、長時間の会議や何度も開催される会議まで、とにかく時間がかかります。会議に携わる人たちの作業時間がどんどん増えていき、労働時間も長くなっていきます。

以下は、上記の作業全てにかかる工数です。

資料作成 3人日
会議出席調整 1人日
会議 30人日(調整、出席者の工数を全て含む)
合計 34人日

無駄のない、イギリスのスケジュール調整

そもそもイギリスでは多くの場合、プロジェクトのスケジュールを決めるに当たって丁寧な資料は作りません。

スケジュールを決定する会議は行うにしても、決定に必要な情報の関係者への提供は、会社で導入しているドキュメント共有システムを使います。そのシステムにプロジェクトの概要や暫定スケジュール、関係者を入力し、チャットシステムで関係者にそれを見てくださいと通知して終わりです。資料がありませんから、会議当日に紙の資料を印刷することもありません。

会議に参加するのは、実際にプロジェクトを動かす人、スケジュールを決定する人だけです。日本に比べると、参加者がかなり少なくなります。

関係者の中には在宅勤務の人や海外にいる人もいますから、対面の会議ではなく、電話会議やウェブ会議です。会議室を予約する手間も、座席を用意する手間もありません。

会議の議題は事前に用意します。そこには分単位で何を決めるのかを書いておいて、決定済みか、未解決かということを会議中に記録していきます。

解決であれば次回の会議に持ち越しですが、何回も話し合うのは無駄ですから、1回の会議で決めることが多いです。

会議の結果は社内のプロジェクト管理システムに記録して、作業完了です。

資料作成 0.2人日
会議出席調整 0.1人日
会議 2人日(調整、出席者の工数を全て含む)
合計 2.3人日

日本の工数はイギリスのなんと15倍近くかかっています。しかし、日本とイギリスの会社の総プロジェクトコストは同じだったりします。なぜかというと、日本の会社では、多くかかった工数を人件費として完全に反映させないことがあるからです。その多くはサービス残業として無報酬で実行されたり、プロジェクトの費用として換算されない普段の業務としてカウントされてしまうので、プロジェクトの費用として表に出てこないわけです。

業務量が多くても、効率的に行う方法がある

このスケジュールの決め方の例からも分かるように、日本以外の先進国では、多くの業務をこなすのに便利なツールをたくさん導入しています。

そのツールは例えば、上記のドキュメントの共有システムや、デスクトップの仮想化システム、オンライン会議のシステム、チャットツール、プロジェクト管理システムなどです。

日本でもこのようなシステムを導入している会社はありますが、海外では日本以上に、とにかく紙で行う業務は極力減らしています。システム化することで、コミュニケーションの手間暇やコストを最大限、削減しようとするのです。

戦略と戦術を考えるのは、経営者や経営幹部の仕事

このようなツール導入の戦略と戦術を考えるのは、経営者や経営幹部の仕事です。

ツールの導入には当然コストがかかります。しかし、海外企業の管理者や経営者は、業務が遅延したり間違いが多発したりするよりも、コストをかけて効率化した方が妥当であると判断します。

導入に当たっては、そのツールがどのように生産性に貢献するのかを検討します。イギリスなどでは人件費が非常に高く、残業代を払うのは当たり前です。そのため、ツールを導入して効率化した方が、総コストの削減につながるというわけです。

また、イギリスやアメリカなどは契約主義の国ですから、雇用契約をする企業に対する政府の罰則が大変厳しいです。訴訟になった場合は、数億円単位の賠償金を請求されてしまいます。そこで、そういったリスクを取るよりも、ツールを導入して効率的に業務を回した方が合理的であるという判断が経営陣には働くわけです。

担当業務以外はやるべきではない

日本以外の先進国は多くの場合、契約社会ですので、基本的に従業員は雇用契約に明記された仕事をすることになっています。各自の担当範囲業務業務記述書で定められていることが多く、自分の担当以外の仕事を手伝うことはかなりまれです。

特に、人件費や固定費などを厳密に検査しなければならない航空業界や自動車業界、製薬業界、IT 業界では、本人の担当分野以外の仕事をされてしまうと、 コストを正確に計算できなくなってしまいます。ですから、担当以外の仕事に勝手に手を出すことは、全く評価されることではなく、むしろ批判されることです。

企業側としては、安全衛生管理の観点からも、従業員が担当業務以外のことをすると困ってしまいます。管理者が部下の労務状況を正確に把握できず、監督できなくなってしまうからです。労働時間が法定内になっているか、職場の安全基準が満たされているか、ということが分からなくなり、安全な管理ができなくなります。

業務がある程度の訓練を必要とする場合、未経験者や訓練が不十分な人に作業をさせてしまうのは、重大な法令違反になることもあります。ですから、企業側のリスク管理の観点、また従業員保護の観点から、決められた仕事以外のことはさせないということが多いのです。

従業員も、契約以外のことはやりませんとはっきり言うことが当たり前です。これは働く人が自分を守るためにも大変重要なことです。自分の専門ではないことをしてしまって失敗したり品質が不十分だったりした場合に、上長や会社は責められる可能性があるわけですから、自分が得意ではないことをするのは断らなければなりません。

労働に対する概念の違い

日本以外の先進国では大概、労働はあくまで生活の糧を得るためのものです。労働によって、自分のアイデンティティーを確立しようというふうには考えません。

もちろん、仕事はその人自身を構成する要素の一つですから、失業してしまうとまるで自分の人生を失ったように感じる人もいます。また、仕事を自分の人生だと考える人もいます。ただし、そのように考える人は、自分の好きなことをやっている人や、趣味の延長として仕事をやっている人、聖職者や学校の先生など、特別な使命感を持って取り組んでいる人が多いです。日本の会社員のように、特に好きでもない仕事を一生懸命やって自分のアイデンティティーの一部にしてしまう人は多くはありません。

好きな仕事ができる人というのは、日本以外の先進国でも少数派です。ですから、仕事はあくまで生活費を稼ぐためであって、なるべく少ない労働でたくさんのお金を稼ぎたいと考える人が多いのです。そのため、雇用契約で定義されている以外の作業は極力やりませんし、まして賃金が支払われないようなサービス残業をやろうというような奇特な人はいません。日本では、大して好きではない仕事であっても、仕事は自分のアイデンティティーだと考える人が多いので、サービス残業してしまったり、給料が低くても一生懸命働いたりする人が多いのでしょう。

仕事は修行?

こういった日本人の考え方には、仏教的な側面もあるのかなという気がしています。仕事は寺における修行のようなもので、仕事をすることで自分自身の精神を磨き上げ、社会に貢献していると感じる人が多いのではないでしょうか。日本には、茶道や生け花、武道など、「道」として極める伝統があり、こういった活動も人生の修行であると考えられています。

日本人が定時退社できるようにするためには、仕事は人生の修行ではないという考え方を定着させる必要があるわけです。これは近代日本人のアイデンティティーを作り上げている文化の一つですから、特に中高年以上の方にとってはかなり難しいことかもしれません。

他のやり方があることも知っておこう

海外で日本の人がこのような仕事の概念や細かい日本のやり方を現地の人に押し付けても、なかなかうまくいかないことがあります。日本のやり方はあくまでマイナーなものであって、日本の外に出れば仕事の考え方もやり方も全く違うということは、心得ておくべきでしょう。

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谷本真由美

文:谷本真由美(たにもと まゆみ)

1975年生まれ、神奈川県出身。ITコンサルタント、著述家。専門はITガバナンス、プロセス管理、サービスレベル管理、情報通信政策および市場分析など。ネットベンチャー、経営コンサルティングファーム、国連専門機関情報通信官、外資系金融機関などを経て2008年よりロンドンを拠点に日本と欧州を往復しながらITコンサルティングに従事。Syracuse University で国際関係論と情報管理学修士取得。趣味はハードロックおよびヘビーメタル鑑賞、園芸。Twitter @May_Roma

編集:GOTCHA!編集部