リード入る
心を揺さぶる20の短編
――書籍『中国語でちょっといい話』について、まずはどんな本か教えていただけますか?
ひと言で表すと、「中国語で書かれた短編ストーリー集」です。2つの章に分かれていて、第1章には中国が舞台の話を11編収録しました。第2章は9編あって、英語圏で語り継がれているストーリーを中国語に翻訳したものを収録。第2章については、過去にアルクが出した『英語で泣ける ちょっといい話』『英語で泣ける ちょっといい話2』から厳選しています。
どのストーリーも、「思いやり」、「愛情」や「友情」などにまつわる内容ですので、泣いたり笑ったりと、読む人の心を揺さぶる1冊になっていると思います。
――成宮さんは新卒で2023年4月に入社して、『中国語でちょっといい話』が初めての担当書籍です。英語ではなく中国語の語学書が1冊目というのは、少し珍しい気もします。経緯や企画のきっかけにはどんなことがあったんでしょうか。
あ、実は、大学では外国語学部で中国語を専攻していたんです。
――えっ、そうなんですか。ということは、成宮さん自身はベラベラだから余裕だったんですね!
べ、ベラベラだと言えるかどうかは・・・(笑)。でも、4年間専攻していたので、一通りは、あの、はい。
企画はもともと、僕のOJTである先輩が考えて提出していた企画でした。編集部内でも「なかなかいいね」と話が進んでいく中で、「じゃあ1冊目としてやってみないか」と私に振ってもらったんです。そこからは、正式に社内の承認を取り付けるべく、先輩に教えてもらいながら、さまざまな情報を調べたり集めたりして詰めていきました。
ためになる故事成語を削ぎ落したワケ
――なるほど。中国語の語学力という点では十分な素地があった一方で、書籍作りは未経験でしたよね。特に苦労した点があれば教えてください。
めちゃくちゃあります。まず、特に大変だったのは収録するストーリーの選定です。
前半の第1章に関して言うと、故事成語はもちろん、中国の国内外で話題になったニュースなど、それこそ無限にネタはあります。これについては一番時間をかけて決めていった部分です。中国語翻訳担当の伏 怡琳先生と打ち合わせをして、ストーリーの候補を伏先生からいただいて確認やすり合わせをしたり、逆にこちらで情報を集めて「こういった話を入れるのはどうでしょう」と提案したり。
第2章については最初にお話しした通り、過去の英語版2冊に収録された40編の中から、9つの話を選びました。2つの章を合わせた全体のバランスはものすごく意識した部分です。
――確かに、生きる上での教えを説くような故事成語の話もあれば、人の優しさにジーンとくる話、駄じゃれ混じりで笑える話、真実の愛についての話など、いろんなタイプの話が詰まっていました。
そうなんです。故事成語はもちろんためになるし種類も豊富ですが、それだけだと説教じみたり、古臭い感じになってしまったりします。この本は、学習者の方たちにとって「最後まで楽しみながら読める本」にしたかった。だから故事成語はあえて3つに絞り、現代のニュースや実話を多く入れています。
そうしてストーリーを集めたら、次は、設定した中検(中国語検定)3級相当の文章に書き直してもらわないといけません。これも同じくらい大変でした。
――書籍のまえがきにも「中検3級とHSK4級レベルの単語を用いて執筆してある」とありますが、具体的にはどうやってそのレベルに合わせるものなんですか?
対象の語彙リストなるものが社内にあるので、翻訳担当の伏先生にそれを渡し、「この所定の単語で執筆してください」とお願いして書いていただきました。そして原稿が上がってきたら、専用のソフトも使いながら、範囲内の単語で構成されているかを編集部でチェックする。漏れをなくすために、私と先輩のダブルチェック体制で進めました。
一部、どうしてもそのレベルを超える単語を使わなければいけないところもありましたが、そういった部分には注釈を付けたので、止まらずにスラスラ読みやすくなっていると思います。
一語一語、何回も、何十回でも
――この本は、全部の単語にピンイン(=拼音。中国語の発音をローマ字表記したもの)も付いていますよね。これは手で打つとか?
あ、いえ、Wordのルビ機能を使っています。日本語と同じように、語句を選択してボタンを押すとピンインが振られるんですよ。ただ、一度で完璧な表記にはならないので、誤りやズレがないか、文頭は大文字に変えるなど、一語ずつ目でたどりながら確認と修正をしていきました。
――い、一語ずつ・・・それは、相当時間が・・・。
かかりました・・・。でも、今まで先輩たちが作り上げてきた「語学といえばアルク」という信頼や看板を、自分が壊すわけにはいかないっていう思いがすごくあって。確認や校正作業は何回したか覚えていないくらいやりました。確かに大変だったけど、大学で学んだことが仕事に生きている瞬間でもあったので、やりがいは大きかったです。
――そうやってゲラを作り込んでいった後に待ち受けているのが、音声の収録です。これも大変だったのではないでしょうか。
収録するまでは緊張していたんですけど、いざ始まってみると、緊張感は持ちつつも楽しみながら進められました。ナレーション担当の陳 淑梅先生は、「中国語学習者は全員知ってるのでは?」っていうくらい有名な方なんです。学習者にとって非常に聞き取りやすく、話の内容に合わせて上手に読み上げてくださいました。リスニングや音読のテキストとして何度も活用してもらえたらうれしいですね。
巻末にはピンインなしの中国語テキストも20編分、全て収録してあります。こちらも、ピンインなしてどれくらい発音が分かるか、声に出せるかなど、ぜひ学習に役立てていたきたいと思います。
イチオシは「砂漠の父」と「敬礼坊や」
――丁寧に、たくさんの時間をかけて完成させた1冊なんですね。私は第1章の「神笔马良/魔法の筆を持つ馬良」と「爱心冰箱(思いやり冷蔵庫)」の2つが特に好きです。自分は登場人物たちのように行動できるだろうか、と考えさせられもしました。20編それぞれに思い入れがあると思いますが、中でも特に「担当のイチオシ」として挙げるとしたらどれでしょうか?
ありがとうございます。「神笔马良」は、幼い頃に親を亡くした、絵を描くことが大好きな少年・馬良の話で、「爱心冰箱」は、四川省の成都市から広がっていった、思いやりの連鎖についての話ですよね。
私のイチオシは、「感动中国的日本“沙漠之父”(中国を感動させた日本人〈砂漠の父〉」です。遠山正瑛さんという日本人男性が主人公の実話で、ネタバレになってしまうからあまり詳しくは言えないんですが、困難にくじけず努力する姿や中国と日本の人たちが助け合う様子を、一人でも多くの方に知っていただけたらうれしいな、と思っています。
でも、他のどの話も好きなんです。「敬礼娃娃(敬礼坊や)」もすごく好きだし・・・。これも実話で、2008年に起きた四川大地震で生き埋めになり、20時間後に救出された少年についての感動的なストーリーです。
学習者の皆さんにもぜひお気に入りを見つけてもらえたらと思いますし、どのストーリーが心に響いたか、アンケートを取る機会が作れたらいいなあ、なんて考えています。
――学習者の方たちの生の声って貴重ですもんね。今後も中国語の書籍を手がけてる予定なんですか?
はい。中国語と、それから韓国語の企画も検討中ですので、どちらもしっかり作り込んでいきたいと思います!
『ENGLISH JOURNAL BOOK 2』発売。テーマは「テクノロジー」
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