文法的判断だけでは答えにたどりつけない!前置詞句の修飾関係を考える問題【難問クイズで学ぶ文法知識⑯】

Twitterで話題になった北村一真さん作成の英語クイズで文法知識&読解力を高める本連載。第16回は前置詞句の修飾関係を考える問題です。

クイズ

The chief fruit which I carried away from the society I saw was a strong and permanent interest in Continental Liberalism, of which I ever afterwards kept myself au courant, as much as of English politics: a thing not at all usual in those days with Englishmen, and which had a very salutary influence on my development, keeping me free from the error always prevalent in England, and from which even my father, with all his superiority to prejudice, was not exempt, of judging universal questions by a merely English standard.

-John Stuart Mill Autobiography

the society I saw:「私が経験した付き合い」→フランスでの人々との交流のこと
Continental Liberalism:「大陸自由主義」
au courant:「最新の事情に精通した」

文脈:イギリスの哲学者ジョン・スチュアート・ミルの『自伝』からです。ミルは若い頃に一時期、フランスにいたことがあり、そこでの生活から得たものについて振り返っています。

下線部の前置詞句は直接的には前のどの部分を修飾している?

(1) a thing
(2) a very salutary influence
(3) the error
(4) prejudice

単語・語句

  • fruit:「成果」
  • salutary:「健全な」
  • prevalent:「普及した、広まった」
  • superiority to…:「…に影響されないこと、屈しないこと」
  • be exempt from…:「…を免除された、…を免れた」

ヒント

語順通りに単語を追っていく中で、これは後から内容が説明されるだろうと思える語があるはず。

つまずきポイント

文法的判断だけで解こうとすると、選択肢が多すぎて戸惑ってしまうかも。

politicsまでを前半、コロン(:)以下を後半として確認していきます。まずは、前半部です。文の主語であるThe chief fruitをwhich…の関係代名詞節が修飾している形ですが、ここは落ち着いて読めば

というSVCの大きな構造を見落とすことはないかと思います。主旨としては「フランスでの人々との交流から持ち帰った主な成果は大陸自由主義に対する強い関心だった」ということですね。この後、Continental Liberalismに追加で説明を加える非制限用法の関係代名詞節of which I ever afterwards kept myself au courant, as much as of English politicsが続きます。au courant (of…)は上の注でも示した通り、「(…の)最新の事情に精通した」という意味のフランス語なので、この関係詞節の直訳は「私は以後ずっとそれについての最新の事情に精通した状態であるように自らを保ち続けた」となり、かみ砕いて分かりやすく言うと「私は以降、それについて最新の情報を入手し続けた / 情報をアップデートし続けた」といった内容になるかと思います。前半部の末尾にあるas much as of English politicsは文字通りに「英国の政治についてと同じくらいに」と解釈してよいでしょう。前半部の内容からフランスでの生活を経て大陸の自由主義に対する強い興味を持つようになり、英国の政治と同様に大陸自由主義についても情報をアップデートし続けた、ということが理解できます。

続いて、コロン(:)の後ろの後半部に目を向けましょう。まずは、a thing not at all usual in those days with Englishmen「当時の英国人には全く普通ではなかったこと」という名詞句が続きますが、これはすでに出てきた句や節などを名詞一語で言い換える同格語で、ここでは「大陸自由主義についても情報をアップデートし続けた」という関係代名詞節の内容を受けて、それを言い換えたものになっています。

さらに、その後にand which…と続くので、a thingをnot at all…Englishmenと並んでa thingを後置修飾するもう1つの修飾語句だと判断しましょう。

この関係代名詞節の中身の分析が山場です。had a very salutary influence on my development「私の成長に対して非常に健全な影響を与えた」という核となる部分はよいとして、続く, keeping…はどう判断するか。keeping me free from the error…「その誤りから私を自由にした」→「私をその誤りに陥らないようにした」という内容から、これは「非常に健全な影響を与えた」という直前の内容の理由を説明する分詞構文だと判断するのが妥当でしょう。

ここで、もう1つ、注目しておきたいのがerrorという単語です。the errorとなっていることから特定の「誤り、誤謬」だと思いますが、ここまでに説明はありませんでした。よって、the errorが具体的にどういう「誤り」なのか、後から説明が必ず続くはずです。このような姿勢で続きに目を向けると、always prevalent in England「英国で常に広まっていた」やfrom which even my father… exempt「偏見に毒されなかった父ですら免れられなかった」といった後置修飾の言葉が続けて2つ登場しますが、これらはthe error「誤り」の説明ではあるものの、誤りの具体的中身そのものではありません。そこで、さらに後ろに目を向けると、コンマ(,)を挟んで、とうとうof judging universal questions by a merely English standardという下線部分に突き当たります。of…ingはerrorという名詞の具体的内容を説明するフレーズとして定番ですし、また、意味的な側面で見ても「普遍的な問題を単に英国の基準で判断する」というのは「誤り」や「誤謬」と呼ぶにふさわしいものであるので、この部分がthe errorの中身を表現していると自信を持って結論づけることができます。

このような英文では、of judging…が出てきてから、さて、これはどこにかかっているのか、と考えるのではなく、the errorのように文脈上重要なポジションにありながら具体的内容がはっきりしない名詞句を見た時点で「後から説明がくるのでは?」と疑いながら読むことがポイントです。そういう姿勢があることで、一見複雑に見える文構造も途中で詰まることなく語順通りに直読直解できるのです。

正解 (3)

そこでの人々との交流から持ち帰った主な成果は大陸自由主義に対する強い永続的な関心だった。大陸自由主義について、私はその後も英国の政治同様に情報をアップデートし続けた。これは当時の英国人にとっては全く異例のことであり、私の成長に非常に健全な効果をもたらしてくれた。というのも、それのおかげで私は英国で常に広まっていて、偏見の影響を全くうけなかった私の父ですら免れなかった誤りに陥らずに済んだからだ。普遍的な問題も英国の基準だけで判断してしまうという誤りに。

前回までのクイズはこちらから

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北村一真(きたむら・かずま)
北村一真(きたむら・かずま)

1982年生まれ。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学部生、大学院生時代に関西の大学受験塾、隆盛ゼミナールで難関大受験対策の英語講座を担当。滋賀大学、順天堂大学の非常勤講師を経て、2009年に杏林大学外国語学部助教に就任。2015年より同大学准教授。著書に『英文解体新書』(研究社)、『英語の読み方』(中公新書)、『知識と文脈で深める 上級英単語ロゴフィリア』(共著、アスク出版)、『ジャパンタイムズ社説集2022』(解説執筆、ジャパンタイムズ出版)、『英文読解を極める 「上級者の思考」を手に入れる5つのステップ』(NHK出版新書)など。Twitter:@Kazuma_Kitamura

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