【英語力を試したいあなたに】この動詞は過去形?過去分詞形?【難問クイズで学ぶ文法知識】

英語の難問クイズで文法知識&読解力を高める本連載。Twitterで話題になった北村一真さん作成の英語クイズを、解き方のヒントや詳しい解説も含めて紹介します。

楽しく英文解釈力を高めよう!

今回より6回にわたって『ENGLISH JOURNAL』で英文解釈のクイズコーナーを担当させていただく、杏林大学外国語学部准教授の北村一真です。ここ数年、リーディングを扱ったものを中心に英語学習書の執筆に力を入れてきましたが、今年の6月に出した『上級英文解釈クイズ60』(左右社)(SNSのTwitterで継続的に出題していた英語クイズをまとめたもの)をきっかけに、こちらで同様の内容を扱ったコーナーを担当する機会を頂戴いたしました。よろしくお願いいたします。

それでは早速、第1回のクイズに進みましょう。初回なのでそこまで難しくないものを題材に、かなり詳し目の解説を付けています。

クイズ

下の英文を読んでクイズに答えましょう。

The director general of the U.N.’s nuclear watchdog said he was en route to Ukraine to assess the situation at the Zaporizhzhia Nuclear Power Plant after a dam breach depleted water levels in the reservoir it uses to cool reactors and spent nuclear fuel.

New York Times World Tweet, 2023/6/13

下線部のspentの形は・・・

(1)過去形
(2)過去分詞形
(3)どちらでもない

単語・語句

上の英文に出てきた、押さえておきたい単語・語句を確認しましょう。

  • director general:事務局長
  • the U.N’s nuclear watchdog:IAEA(国際原子力機関)を指す。watchdogは「番犬、お目付け役」の意。
  • en route to ~:~に向かう途中である
    ※フランス語からの借用表現で、en masse「大挙して」などとともに時事英語では一定の頻度で見られる語句。
  • the Zaporizhzhia Nuclear Power Plant:ザポリージャ原子力発電所
    ※6月にドネツ川の下流にあるダムが決壊し、原発への影響に対する懸念が高まった。
  • deplete:~(資源など)を激減させる、~を枯渇させる
  • water levels:水位
  • reservoir:貯水池

ヒント

文法構造と合わせて文意にも矛盾のない解釈を心掛けよう。

つまずきポイント

spent nuclear fuelというところだけを見ると、動詞(V)+目的語(O)の形とみなすこともでき、同時にそう解釈しても完全に文法的に破綻するわけではないため、「(1)過去形」を選んでしまった人もいるのではないでしょうか。

6月に起きたウクライナ南部のドネツ川下流のダム決壊によって、上流にあるザポリージャ原発の安全に対する懸念が一気に高まりました。Tweetでは、当該原発の安全を確認するためにIAEAの事務局長がウクライナに査察に向かうと語ったことを報じています。

文の主節の構造は以下のようにシンプルなもの。saidの後に続く従属節は事務局長が語った内容を意味しており、saidの後にthatを補って考えると分かりやすいでしょう。

全体の構造

The director general of the U.N.’s nuclear watchdog(S)
         said(V)
          (that) he was en route to ・・・(O)

さらに、事務局長が語った中味である従属節の前半の構造についても確認しましょう。

・・・he(S)
  was(V)
    en route to Ukraine(C)
      (to assess the situation at the Zaporizhzhia Nuclear Power Plant ・・・)

to以下のto不定詞句(to assess ・・・)はシンプルに「彼がウクライナに向かう」目的を表す副詞用法と考えてよいところです。「ザポリージャ原子力発電所の状況を視察するためにウクライナに向かうところ」ということですね。

今回のクイズで問題になっているのはこの従属節の後半のafter以下の部分の構造です。 

after節の構造

まず、afterの後にa dam breach(S) depleted(V)と主語(S)+動詞(V)の形が続いていることから、afterが接続詞であり、この部分は従属節の中にさらにもう1つ従属節が組み込まれた形になっているということが分かります。

after
 a dam breach(S)
    depleted(V)
      water levels(O)

つまり、「ダムの決壊が水位を一気に減少させた後=ダムの決壊によって水位が一気に減少した後」ということを言っているわけですが、その「水位」がどこの「水位」かということをin the reservoir以下の前置詞句が更に説明しています。ここで、reservoirの後にit usesと主語(S)+動詞(V)の形が続くことから、恐らくは、reservoirに関係代名詞節がかかっている形だな、とすぐに判断したいところです。

この場合、itはthe Zaporizhzhia Nuclear Power Plantを指します。usesはシンプルに「~を利用する」の意味、to cool reactorsのcoolは「~を冷却する」という動詞として使われており、to・・・reactors全体は目的を表す副詞用法のto不定詞句となっています。意味は「原子炉を冷却するために当該原発が利用している貯水池の」となることが分かります。

ここまで読んできて、ようやく問題の箇所にたどり着きました。cool reactorsの後に続くand spent fuelの構造をどう判断するかがポイントになります。普段から類似のテーマの英文をよく読んでいて、spent nuclear fuelと見たらすぐに「使用済み核燃料」のことだと分かる人や、spend nuclear fuelという動詞句で「核燃料を消費する」という意味を表すことはまずないということが分かっている人にとっては全く難しくないと思いますが、ここではすぐにそう判断できなかった場合にどう考えればよいかを確認しましょう。

cool(V) reactors(O)というVOの形のすぐ後に並列されていることから、spent(V) nuclear fuel(O)という構造を思い付くことがあるかもしれません。しかし、もしcoolと並列させているのであれば、これはto不定詞句の一部ですから、spentではなくspendと原形になるはずです。同様の理由から、uses(現在形) ・・・ and spent(過去形)・・・という並列もやはり違和感があります。ここまで考えたところで、spentは過去分詞形を形容詞的に用いて、nuclear fuelを修飾しているのではないか、という方向に考えが向かえばよいですが、もしかしたら、更に前の部分にまでさかのぼって、depletedとspentが並列されているのではないかと考えた人もいるかもしれません。これが厄介なのはこの解釈が文法上の理屈からはあからさまに矛盾するわけではないということです。実際、構造だけを見れば、以下のように解釈することは不可能ではありません。

a dam breach(S)
  depleted(V1)
    water levels(O1)・・・
     and
      spent(V2)
        nuclear fuel(O2)

こういう場合、意味も同時に考えることが重要です。「ダムの決壊が水位を一気に減らした」というのは理解できますが、「核燃料を消費した」というのは、仮にspend nuclear fuelという言い回しが自然なものだとしても、どういうことなのか判然としません。ここから、やはりこのspentは動詞として用いられているのではないと判断できたかがポイントです。もちろん正しい構造は以下の通りで、andはcool「~を冷却する」の目的語となる2つの名詞句reactors「原子炉」とspent nuclear fuel「使用済み核燃料」を結んでいます。

解答と訳例

(2)過去分詞形

訳例
国連の核監視機関の事務局長は、ダムの決壊により原子炉や使用済み核燃料を冷却するための貯水池の水位が一気に低下したことを受け、ザポリージャ原子力発電所の状況を査察するためにウクライナに向かうところだと述べた。

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北村一真(きたむら・かずま)
北村一真(きたむら・かずま)

1982年生まれ。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学部生、大学院生時代に関西の大学受験塾、隆盛ゼミナールで難関大受験対策の英語講座を担当。滋賀大学、順天堂大学の非常勤講師を経て、2009年に杏林大学外国語学部助教に就任。2015年より同大学准教授。著書に『英文解体新書』(研究社)、『英語の読み方』(中公新書)、『知識と文脈で深める 上級英単語ロゴフィリア』(共著、アスク出版)、『ジャパンタイムズ社説集2022』(解説執筆、ジャパンタイムズ出版)、『英文読解を極める 「上級者の思考」を手に入れる5つのステップ』(NHK出版新書)など。Twitter:@Kazuma_Kitamura

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