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英語black sheep(厄介者)をもじったrainbow sheepってどんな意味?【北村紗衣︰映画】

文学&カルチャー英語

英語は、楽しい文学や映画、コメディーなどに触れながら学ぶと、習得しやすくなります。具体的な作品を取り上げて、英語の日常表現や奥深さを、シェイクスピア研究者で大学准教授、自称「不真面目な批評家」の北村紗衣さんが紹介します。連載「文学&カルチャー英語」の第2回は、アジア系の超セレブたちを描いたコメディー映画『クレイジー・リッチ!』です。

※テキスト中のリンクが表示されない場合は、オリジナルサイト<https://gotcha.alc.co.jp/entry/20191025-kitamura-literature-culture-2>でご覧ください。

映画『クレイジー・リッチ!』のcrazyの意味は?

2018年のロマンチック・コメディー、『クレイジー・リッチ!』(Crazy Rich Asians)は、まずタイトルから文法的な解説が必要な映画です。

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この作品は、中国系アメリカ人である大学教員のレイチェル・チュウ(コンスタンス・ウー)が、アメリカで出会ったシンガポール人の恋人ニック・ヤン(ヘンリー・ゴールディング)の里帰りについて行ったところ、ニックは実はシンガポール上流階級のトップに君臨する大富豪ヤン家の御曹司で、レイチェルは大変なカルチャーショックを経験する、という内容です。

英語のタイトル『Crazy Rich Asians』は、ヤン家のような常人の想像を超える資産を持ったアジアの大金持ちを指しています。このCrazyは表面的には一応、「異常な」という形容詞ではなく、Rich(大金持ちの)を修飾する「ものすごく」という副詞として働いています。

映画で、レイチェルの親友であるシンガポール人のペク・リン(オークワフィナ)が、「They’re crazy rich.」(あの人たちはめちゃんこ大金持ちなんだってば)と発言していて、このcrazyは間違いなく副詞です。

つまり、タイトルの『Crazy Rich Asians』は、とりあえずは「ものすごく金持ちのアジア人たち」という意味になります。ただし、映画を見ていると、このアジアの大金持ちたちの常軌を逸した金の使い方がだんだん見えてくるので、裏の意味としては、「イカれた金持ちのアジア人たち」ということもほのめかされているのだろうと思えてきます。

こういう、普段は形容詞で使う単語を強調の副詞として使うものには他に、realやdeadがあります。

1970年代のイギリスのロックバンド、フェイセズ(Faces)の歌「Had Me a Real Good Time」は、「本物の良い時間を過ごした」ではなく、「ホントに良い時間を過ごした」です。また、「I am dead serious.」という表現は、「私は死んでいて真剣です」ではなく、「私はものすごく真剣です」の意味になります。

出自や育ちを表すさまざまな英語

シンガポールの上流階級出身であるニックは、癖のない明快な発音のイギリス英語を話します。そのため聞き取りやすく、英語学習者にとってはありがたいでしょう。ニックの発音は、彼が非常に育ちが良く、高い教育を受けているということを示唆しています。

一方、アメリカで教育を受けたという設定のペク・リンは、アフリカ系アメリカ人英語の影響がある、くだけたアメリカ英語を話し、早口で、次々にジョークを言うので、なかなか聞き取りにくくなっています。とても魅力的なキャラクターなのですが、せりふの聞き取りは学習者泣かせです。

ペク・リンも相当にお金持ちの家の娘ですが、シンガポールの階級基準で言えば、二流の新興成金の家庭に育ったという設定です。

ペク・リンとニックの話し方の違いは、お金持ちの間でも厳然たる階級差があることを示唆しています。そこそこリッチな人々と、クレイジーにリッチな人々の間には、さまざまな差があるのです。

「あなたはthe talk of the party」の意味は?

この映画には社交の場面が多いので、気の利いた表現や、覚えておくと便利そうな表現がいろいろ出てきます。

例えば、ニックの親戚であるオリヴァー(ニコ・サントス)がパーティーで初めてレイチェルやペク・リンと会ったときの会話は、いかにも英語圏の社交の会話という感じで、明日からすぐ使えそうな表現がたくさんあります。

パーティーで、オリヴァーはレイチェルに、「On the bright side, you’re the talk of the party.」と言います。

このOn the bright sideというのは「いい方向に考えれば」という意味です。

the talk of the partyは「パーティーの話題」ですが、こういうthe talk of ~は「~のうわさの的」という意味になります。of以降を変えて、the talk of the town(町のうわさの的)、the talk of the school(学校のうわさの的)など、さまざまな場面で応用できます。

レイチェルはヤン家のパーティーでいろいろ失敗して居心地悪くなっているのですが、オリヴァーはちょっと斜に構えた感じでレイチェルを励ましてあげているわけです。

褒め言葉で使えるlike

同じパーティーの場面でこの後、オリヴァーはペク・リンに自己紹介し、握手しながら、「I like your shoes.」(あなたの靴、好きですよ)と言います。

こういうlikeは、英語圏の人が社交の会話で相手を褒めるときによく使うもので、「いい靴ですね」くらいの意味になります。英語を学び始めたばかりの人は、なかなかさらっと使いこなせない言い方です。

私も、英語圏で学会発表をしたときに何度か、「I like your paper.」と言われてうれしく思いましたが、日本語では学会発表を褒めるときにあまり「あなたの論文、好きですよ」などとは言いません。自分で他の人の発表にコメントするときに、「I like your paper.」と言えるようになるまでには、時間がかかりました。私も、オリヴァーのように、さらっとこういう言い方で国際学会の懇親会を乗り切りたいものです。

the rainbow sheepはどんなヒツジ?

このパーティーの場面でオリヴァーが使う表現で一番面白いのは、自分は「the rainbow sheep of the family」(一家の虹色のヒツジ)だ、という言い方です。これは、前回の『パディントン』の記事で扱った表現同様、英語の決まった言い回しの一部を、視点を変えてひねったものです。

元の表現は、the black sheep of the family(一家の黒いヒツジ)というもので、「一家の厄介者」を意味します。日本語にも「毛色が違う」という表現がありますが、白いヒツジの群れの中に黒いヒツジが1頭だけいるイメージですね。

オリヴァーは、black(黒)をrainbow(虹色)に変えています。これは、レインボーカラー、つまり虹色がセクシュアルマイノリティーのシンボルカラーであることを踏まえた表現です。

オリヴァーはいわゆるかなり「オネエ言葉」っぽい英語で話す男性です。この場面では、初対面のペク・リンやレイチェルがどういう人かを瞬時に見極め、自分がゲイだという話題を出してもOKな相手だと判断して、ちょっとひねった表現を使い、自分の性的指向をカムアウトしているわけです。

▼前回の記事はこちら↓

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社交の英会話を参考にするときの注意

『クレイジー・リッチ!』は社交界を描いた映画なので、こういうしゃれた会話がたくさん出てきます。シンガポールの上流階級のパーティーに招かれるようなことは、ほとんどの人が経験しないでしょうが、それでも、紹介したような社交的な集まりの会話には、英会話の面で学べるところがあります。

ただし、まねするときは、善玉キャラで不愉快なことをあまり言わないオリヴァーやニックの話し方を参考にしましょう!この映画には社交に付き物の足の引っ張り合いや嫌みもたくさん出てきますが、それはさすがに会話の参考にはしない方がいいと思います。

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北村紗衣

文:北村紗衣(きたむらさえ)

武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。著書に『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち──近世の観劇と読書』(白水社、2018)、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か──不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』(書誌侃侃房、2019)など。

ブログ:https://saebou.hatenablog.com/

編集:GOTCHA!編集部/トップ写真:山本高裕(GOTCHA!編集部)