listenとhearの定義の違いは?ほとんどの日本人が勘違いしている使い方【イージー英会話】

英会話の達人、カン・アンドリュー・ハシモトさんが今回取り上げるのは、listenとhearの違い。「無意識に聞こえてくる」のがhearで、「意識して聞く」のがlistenというのは本当なの?

カルチャースクールの授業で出会った老紳士

青山や銀座にある新聞社主宰のカルチャースクールで、僕がクラスを受け持っていたのはもうずいぶん昔のことです。そのころ僕は、アメリカ人の友人2人を引き入れて、3人で同じクラスを受け持っていました。

「来週は僕、仕事入ったからAlanがクラスを引き受けてくれない?」「Sure thing!(もちろん!)」こんな感じの気軽なバイトとして、僕たちは持ち回りで楽しくやっていました。ただ1つのクラスを除いて。

それは水曜日の午前10時からのクラス。生徒さんは仕事をリタイヤした年齢の、でもとても活動的な人たちでした。そのなかに僕たちがthat guy(あの人) と呼んでいた、それはそれは元気な老紳士がいました。

彼は言いました。テキサス出身の友人には、

Your grammar is often wrong.
君は英語をよく間違える。

ミシガン出身の友人には、

You have an accent.
君の英語はなまっている。

ミシガン州はアメリカ英語として最も標準的な発音とされている地域のひとつです。

そして僕には、

I like how you talk. But you look like an Asian. I don’t like it.
君の話し方は好きだが、顔が東洋人なのでモチベーションが下がる。

毎回必ず何か指摘されるので、まあそういう性格の人なのかなと思いますが、初めてそれを聞いたとき僕は笑ってしまいました。

友人の1人は“I saw red.”、もう1人は“I blacked out.”と言いました(「頭に来る」は英語でget mad / get upsetなどと言いますが、see redはそれよりもボルテージが高く、「激怒する」「カンカンになって怒る」という意味です。black outは「頭が真っ白になる」という意味です。言語が変わると黒が白になる、言葉って面白いですね)。

そのころ、老紳士は僕たち3人の間では常に話題の人で、“What did he say?”(日、何を言われた?)が毎週水曜深夜の僕たちの決まり文句でした。

A: Ain’t nothing but a thung.(何でもないんだけどさ)
B: OK, we’re listening.(いいから話してみろよ)
A: He’s too picky.(彼は細かすぎるんだよ)
C: Pointed out your mistake again?(また間違いを指摘された?)
A: It bugs me.(ムカつくんだよ)

(Aint’t nothing but a thung.は、よく使われる表現ですが、この英文は文法的には正しくありません)

そもそも、こんな3人が人に英語を教えていいのかとも思いますが・・・、それはともかくとして、僕は水曜日のクラスの担当を外してほしい、と会社に何度もお願いしました。でも2年半、それはかないませんでした。

老紳士は現役時代に有名私立高校の英語の先生だったとのこと。僕だけはそこを辞めた後、彼が亡くなるまでなぜか彼のペンフレンドだったのですが(理由は思い出せません)、今回は彼が僕たちに指摘した、「これは間違った英語だ」という表現についてほんの少しだけ反論(気弱・・・)できたらと思います。

hear musicとlisten to music、どちらが正しい?

みなさんはhearとlistenの違い、どう考えていますか?

一般的に、hearは「無意識に聞こえてくる」「耳に入ってくる(=聞こえてしまう)」、listenは「意識して聞く」「気持ちを集中させて聞き入る」ことを表現するとされています。

hearは受動(passive)、listen は能動的(active)と言う人もいます。

「ベルが鳴ったのが聞こえた」と言うとき、これは「注意して聞く」というより「聞こえてしまった」という状況です。従って、“I heard the bell ring.”とhearを使って表現します。

一方、「ねえ、みんな、聞いて!」と言うとき、これは「聞こえてしまう」わけではありません。「注意して聞く」という行為が求められています。だから“Hey, everyone, listen!”とlistenを使います。

「散歩をしていたら音楽が聞こえてきた」のように、偶然耳に入ってきた(聞こえてしまった)場合でない限り、音楽は「意識して」「気持ちを集中させて聞き入る」モノなので、「音楽を聞く」はhear musicでなくlisten to musicだという意見を聞きます。

本当でしょうか。

僕はクラスでロッド・スチュワートがステージで叫んだ言葉を取り上げました。「みんな、次は何のを聞きたい?」というせりふです。このとき彼は何と言ったと思いますか?hearとlistenどちらの言葉を使ったでしょう?

彼が言ったのは次の言葉です。

What do you wanna hear next?
次は何の曲を聞きたい?

老紳士は僕に「それは listen の間違いだ」と言いました。でも実はこのセリフ、「次、何いく?」のようなニュアンスで、アーティストたちがライブ会場で観客に投げかける決まり文句の1つです。このとき“What do you wanna listen to?”とは言いません。

なぜでしょう?

僕がレコーディングスタジオで、ブース内にいるナレーターやシンガーに最初に言う言葉はこれ。

Can you hear me?
僕の声、聞こえる?

ママが子どもに「ねえ、ママが言ってること、ちゃんと聞いてる?」と怒っているときはこう。

Are you listening to me?
聞いてる?

“I can’t hear you!”は、電波の状態が悪くて携帯電話の相手に「聞こえないよ!」というときで、“I can’t listen to you!”は、「もう君の話はこれ以上聞いていられないよ!」というときに言います。

違いは単純です。「聞いている対象」が「音」のときには hear、音ではなく音(話)の「内容」「中身」のときにlistenを使います。

ロッド・スチュワートをはじめとしたアーティストたちは、「オレたちのサウンドを楽しんでくれ。次、何聞きたい?」という気持ちだからhearなんです。

「オレたちの音楽を深く聞き入ってほしいぜ」という言い方はコンサート会場には似つかわしくありませんが、もしもそう言いたいのならlistenを使います。

演奏終了後、ライブでの楽しい時間をあなた自身が思い出すとき、それを表現する言葉はhearです。一方、コンサートからの帰り道で今日のステージを思い出しながら、音楽プレーヤーをオンにしてヘッドフォンをして同じ曲を聞く場合は、listenです。

hearはlistenと同様、能動的である状況でも使います。違いは聞く対象が「音」か「内容」かです。完全にきれいに分けられないところ(どちらも使える場合など)もありますが、何となく分かってもらえたらうれしいです。

音そのものを聞かせるならhear。内容を聞かせるならlisten。

アルクに「1000時間ヒアリングマラソン」という大ヒット商品がありました(僕の会社も制作に関わっていたことがあります)。この商品名についてある大学の先生が、「これはリスニングマラソンであるべきだ」と言ったのを聞いたことがあります。「英語の勉強のための教材だろ?ヒアは「聞こえてくる」という意味だから」と。

基本的に僕はとてもお行儀のいい小心者なので笑顔で聞いていましたが、この意見には賛成しません。hear、listenはどちらも間違いではなく、制作者のチョイスです。

「リスニングマラソン」ならば「CDの内容をしっかり聞かせる、そのための教材」と考えられます。「ヒアリングマラソン」なら「CDから出てくる音そのものを、耳を澄ませて聞くための教材」と考えることができます。どちらのタイトルを選んだのかは、そのまま制作者の気持ちを表しています。

関わっていたことがあるので知っているのですが、この教材は「これ全部を1カ月間に聞くことができるの?本気?」というくらい大量の音声が、毎月届きます。そう考えると、浴びるほど音声を聞かせるこの教材には、意図してhearという言葉が使われたのでしょう。季節に一度くらいお会いする機会があるので次回、名付けたご本人に直接尋ねてみますね。そしてみなさんに必ずご報告します。

最後にひと言だけ。僕は今回決して老紳士を非難するつもりで書いたわけではありません。80歳を過ぎても勉強熱心だったこと、そして知識が非常に豊富だったことを僕は尊敬しています。

僕自身は授業中に何度もスペリングミスを指摘されました。忘れられないのは dermatitis(皮膚炎)の複数形(正しくは dermatitides)。そんな単語を辞書なしで指摘できる人は、ネイティブスピーカーでもなかなかいないと思います。彼が天国でもあのころみたいに不機嫌な顔で、赤鉛筆をなめながらこの記事を読んでくれていたらうれしいです。

最後に、hearとlistenの定義と例文の一部を紹介します。Cambridge Dictionaryからの抜粋です。

hear

  1. to receive or become conscious of a sound using your ears: I heard a noise outside.
  2. to listen to someone or something with great attention or officially in court: I heard a really interesting programme on the radio this morning. I heard the orchestra play at Carnegie Hall last summer.

listen

to give attention to someone or something in order to hear him, her, or it: What kind of music do you listen to? She does all the talking ? I just sit and listen.

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

カン・アンドリュー・ハシモトさんのその他の記事

英語がもっと好きになる記事がたくさんあります。

お知らせ

日本実業出版社からぼくの14冊目の著作が発売になりました!『英語はリズムで伝わる!英語が身につくチャンツトレーニング』です。チャンツ音楽はすべて僕自身が書きました。手に取っていただけたら幸せです。

カン・アンドリュー・ハシモト
カン・アンドリュー・ハシモト

アメリカ合衆国ウィスコンシン州出身。教育・教養に関する音声・映像コンテンツ制作を手掛ける株式会社ジェイルハウス・ミュージック代表取締役。英語・日本語のバイリンガル。公益財団法人日本英語検定協会、文部科学省、法務省などの教育用映像(日本語版・英語版)の制作を多数担当する。また、作詞・作曲家として、NHK「みんなのうた」「おかあさんといっしょ」やCMに楽曲を提供している。14作目となる著書『英語はリズムで伝わる! -ネイティブに聞き返されない英語が身につくチャンツトレーニング-<音声DL付>』(日本実業出版社)発売中。

SERIES連載

2024 04
NEW BOOK
おすすめ新刊
観光客を助ける英会話
詳しく見る
メルマガ登録