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英語も日本語もスラスラ出てくる! 通訳者の「メモ」の取り方

英語も日本語もスラスラ出てくる! 通訳者の「メモ」の取り方

現役プロ通訳者が通訳現場のさまざまな話題やこぼれ話を語ります。1回目の今回は、英語医療通訳者・翻訳者・医師の押味貴之さんが、英語も日本語もスラスラ出てくるメモの取り方を紹介します。

突撃!隣のノートテイキング

突撃!隣のノートテイキング

※イラスト:つぼいひろき

「この記号は何を意味しているんですか?」「これは『病気』って意味で書いたんですよ」。

私が教えている通訳学校の授業では、毎回こんな言葉が交わされる。授業では「サイトトランスレーション」や「リテンション」(各用語の説明は後述)、そして逐次通訳(話者がある程度話した後で通訳者が訳す)といったアクティビティーを行うが、生徒には必ず通訳のために自分が取ったメモ「ノートテイキング」をクラスメートと見せ合うことを勧めている。これこそ独学では体験できない、通訳学校ならではの醍醐味だからだ。

通訳初心者の場合、紙に書かれた文章を訳していく「サイトトランスレーション」は、訳の表現を自然にするために重要な練習法だが、1分から3分間程度の音声を聞き、その内容と表現を正確に覚えておく「リテンション」も短期記憶の向上に欠かせない訓練だ。多くの練習をこなし、ある程度の長さの文章をしっかりと記憶できるようになると、ノートテイキングのトレーニングに移ることができる。

通訳に欠かせない「メモ取り」のスキル

ノートテイキングは、「メモ取り」を意味する通訳業界ならではの用語で、逐次通訳には必須のスキルだ。話を聞いて一語ずつ書き取る通常のメモ取りとは異なり、記号や矢印などを使いながら非常に簡潔に内容を書き取っていく。具体的には、罫線などがない真っ白な紙の真ん中に縦線を入れ、聞き取った情報を左上から右下にかけて表現していく。話の内容に区切りがあれば、そこに横線を引いて視覚的な区切りを入れる。多少の差異はあるにせよ、これが通訳業界での世界共通の様式だ。

とはいえ、ノートテイキングには通訳者の個性も大いに反映される。その最たるものが「使用言語」「記号」「つなぎ方」の3つである。

まずは日本語と英語のどちらで書くかという「使用言語」の選択。聞き取った言語で書く人もいれば、訳出し(翻訳)する言語で書く人もいる。また必ず母語で書くと決めている人もいれば、苦手だからこそ第2言語で書くほうがいいと考える人もいる。

押味流!「光」が意味するもの

次に「記号」の使い方。矢印や等符号などは意味通りに使うが、実に個性的な記号もある。私の場合、漢字の「光」を、「本日はこのような機会を与えていただき光栄です」といった式辞表現に使っている。これを見れば日本語でも英語でも類似の式辞表現が口からスラスラと出てくる、私にとって極めて便利な記号なのだ。

最後が文脈の「つなぎ方」。意味の区切りで横線を引くのが基本だが、区切った部分を線や矢印を使ってつなげていく場合もある。こうすることで同じ意味の情報を重複して書くのが防げるだけでなく、話の全体像を視覚的に捉えられるようになる。このつなぎ方にこそ、個性が色濃く反映されるのだ。

もちろん「使用言語」には正解はなく、「記号」も本人が使いやすいものを使えばいいし、通訳の思考法によって「つなぎ方」も変わってくる。だからこそ隣の通訳者のノートテイキングをのぞくことで、思いがけないアイデアが得られるのだ。

この記事は『マガジンアルク』2014年5-6月号に掲載されたものです。

gotcha!

文:押味貴之(英語医療通訳者・翻訳者・医師)

イラスト:つぼいひろき

編集:増尾美恵子