英語が自動的に上達し続けるただ1つの条件 ― 学習法よりも大切なこと

通訳・翻訳者で、ベネディクト・カンバーバッチさんやエディ・レッドメインさんなどの通訳や英語インタビューも行う川合亮平さん。この連載「通訳者が実践する英語学習法」では、15年ぶりに本格的に英語学習を再開した川合さんに、日々、向上し続けるための方法を多方面から教えていただきます。第3回のテーマは「英語が自動的に上達し続けるただ1つの条件」です。

こんにちは。川合亮平です。連載の第3回です。

前回 は、僕が英語学習の過程で感じた3つのブレークスルーを紹介しました。「一夜にして」英語力が変わった体験も書きましたので、未読の方はぜひご一読ください。

英語が「上達感ゼロ」状態になる理由

僕は20数年前に、英語力ゼロの状態から、英語学習を大阪の自室で開始しました。その地点から現時点までを俯瞰(ふかん)で眺めてみると、英語力は明らかな上昇曲線を描いています。

しかし、その過程においては、「最近、全然上達してない。いや、むしろ後退してるんじゃないか?そりゃないよぉ」というリアルな実感を持ったことも少なくありません( 具体的な 例は後ほどシェアしますね)。

あなたはそんな経験ありますでしょうか?え?今まさにそんな状態?

僕なりに 分析 してみて、そのような「上達感ゼロ」状態になる大きな理由は、

「英語を学習する(使う)必要性がないから」

または、

「英語を学習する(使う)必要性を失ったから」

だと実感しています。

この現象を一言で表現すると、「英語は必要以上にうまくならない」ということになると思います。それが今回の記事の大きなテーマであり、解決法として、 どのように必要性を作っていけるのか を皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

英語は必要以上にはうまくならない

Necessity is the mother of invention.(必要は発明の母)ということわざがありますが、それを英語学習に置き換えるなら、「英語は必要以上にはうまくならない」ということになると思います。

心理学的に人間の行動原理の根本は「快楽の追求」と「苦痛の回避」の2つであると言われています。現状にある程度満足していて、快楽を追求する必要も、苦痛を回避する必要もなければ、一般的に人間は自主的に行動を起こさないということですね。

英語学習も同じで、 特に何らかの必要性(ニーズ)がなければ行動しにくくなり、その結果、もちろん上達もない 、という流れになると思います。

英語力を向上させていく必要性がある状態とない状態をより現実に即した形で理解していただくために、2つの実話を紹介します。

伸び悩みストーリーズ

ある40代男性の話

僕が大変お世話になっている日本人の方の話です(仮にY氏としておきましょう)。Y氏は英語を全く必要としない社会人生活を日本で送っていたのですが、30代のときの転職の結果、前職から一転して、英語を日常的に使う環境に身を置くことになりました。

英語力ほぼゼロの状態から、日々の業務を滞りなく行うために、試行錯誤で英語学習の努力を継続した結果、数年後にはTOEICのスコアが700点を超え、仕事で必要な英会話も普通にこなせるようになったのです(素晴らしいですね)。

しかし、そんなY氏、僕に次のようなせりふを最近よく言ってくるのです。

最近、勉強しても、英語が全然上達せえへんわぁ。なんでかなぁ」

僕としては「知らんがな」なんですが、それではあまりにも人情味に欠けるので、真剣に考えました。「以前のように英語学習を続けているY氏は、なぜ以前のように上達感を得られなくなったのか?」

それに対する答えが、「英語は必要以上にはうまくならない」なのです。

Y氏は、ご自身では気付いていらっしゃらないかもしれませんが、 今の人生(仕事)で必要な英語力はすでに身に付けてしまった のですね。これ以上英語がうまくなる「必要」がないわけです。だから現在は、今のレベルでいったん英語力が保留になっているような状態だと思います。学習を続けてはいるものの、目指すべき場所を無意識に失っているので、現状維持にとどまっている、ということだと 分析 しました。

「めでたしめでたし」じゃなかった話

僕は20数年前、ハタチ前後のときに大阪の自室で英語学習を開始して、その後5年くらいは、伸び悩みこそあれ、基本的には前向きに英語と向き合えていました( 従って 、ある程度の上達感は得られていましたし、キャリアでの成果も上がっていました)。しかし、ある出来事が きっかけ で、英語の向上心が一気になくなり、上達感も得られなくなったのです。

その出来事とは、今の妻と付き合い始めたこと。

当時は自分がなぜそのような英語スランプ状態になっているのか全く理解できなかったのですが、振り返ってみると、ガールフレンドをゲット(←かなり軽い表現ですみません)したことで、僕の中で 英語を勉強する「必要性」が激減した ことが 原因 だと 分析 しています。

「つまり、川合さん、あなたは英国人の女性と付き合うために、それまで5年間、なりふり構わず集中して英語を勉強してきたということですか?」という質問に対しては、「おおむねYESです」と答えるしかありません。その事実に自分で気付いたときは、「通訳になるとかカッコいいこと言ってたくせに、結局そこか」と、自分自身をツッコミたくなりましたが、まあ、動かしがたい事実なのでどうしようもありません。僕のモチベーションは結局そこだったわけです(人生全般において、結局そこがモチベーションであると、潔く認めます)。

でも僕は思うのですが、 人に迷惑をかけない限りにおいては、人間の内なるモチベーションに良いも悪いもありません よね。ゲーテさんも『ファウスト』の中で「永遠の女性なるものが我らを高みに導く」という趣旨のことを書いているようだし。詳しくは知りませんが。

まあとにかく、そんな英語スランプ状態から新たな必要性を見いだすまで、しばらく時間がかかった覚えがあります。僕の中での英語向上心が空白の数年間です。

必要性があれば英語は自動で上達する

多少極端かもしれませんが、 英語を身に付けたければ、「必要性」を自分で作るのが一番手っ取り早い のではないかと真剣に思っています。

「必要性」があれば人はおのずと行動する性質を持っているので、誰もが持つその動物的習性を利用するのです。そこさえしっかり自分の中で確立することができれば、英語力は、その必要性を満たすポイントまで自動で上達していく、とも言えると思います。

では、どのようにして必要性を生み出すのか?幾つか方法があると思いますので、僕なりの考えを紹介します。

英語の必要性を作る方法

1. 目標を持つ

現状と目標の間のギャップが すなわち 、必要性になる わけです。

目標は何でもありだと思います。例えば、「年間でペーパーバックを5冊読む」など、 数値を目標にするのも良い のではないでしょうか。

ちなみに 僕も現在、幾つかの目標を持って英語学習に取り組んでいます。その一つは、「海外セレブリティの来日通訳は川合」と反射的に言われるくらい、その分野で完全に突出した通訳の実力を持つことです。そして、BBCのような海外メディアのリポーターとして、ネイティブスピーカーと遜色がない現地リポートを英語でできるようになりたいとも思っています。

2. 環境を作る(切迫感を持つ)

あるレベルの英語力が「当たり前の 前提 」として求められる環境を、自分の周りに自分の手で作っていく、または、そういった環境の方向に自分を動かしていきます。

そのような環境に入ると、最初は 求められる英語力と自分の現状レベルの隔たりに対して焦りや切迫感を覚えるかもしれませんが、それは自分が伸びていく大きなチャンスと捉えることもできる わけです。「不便なのを便利にしたい」という習性はとてもパワフルですからね。

振り返ってみると僕自身、これまでこの英語上達戦略で英語力を伸ばしてきたという実感があります。英語を使う仕事として最初にやったのが、23歳のときの英会話講師でしたが、正直、実力的にはギリギリ(むしろアウト?)の採用でした。僕が勤めた英会話学校は、授業を全て英語でしなければいけなかったので、最初はかなりしんどかったのです。でもそれが当たり前の環境なので、いやでも応でも適応していくしか道はなく、仕事を通じて英語力が確実に一段階アップしました。

その後も、初めて英語インタビュアーとして仕事をするときや、初めて通訳の仕事をするときなども、「ギリギリ大丈夫かな?どうかな?」というラインの仕事にわざと 背伸び(むしろジャンプ?)してチャレンジすることで、自分の英語力をそれらのレベルに適応させてきました 。その姿勢は今でも変わりません。

3. 英語を通して何かを得ようとする

2.の、仕事の遂行を通して英語力を高めていく、というのと根本的には同じ考え方です。でも、英語の向こう側にある 対象は別に仕事である必要はなく、趣味でも日課でも何でもいい わけです。

例えば、日本語で読んでいたプレミアリーグの情報を、完全に英語メディアから得るように変えてみる、といったようなことです。今まで右手で歯を磨いていたけど、左手にしてみる、と似ていなくもありません。行動は一緒だけど、手段を変えるのです。最初はもちろん違和感があり、右手ほどうまく磨けないけれど、毎日継続していくとそのうち慣れてきます。

もちろん、プレミアリーグの情報が 自分にとってどれだけ必要か によって、英語吸収率も変わってくることは言うまでもありません。

エド・シーランとニコール・キッドマンから学ぶこと

今、世界でトップの男性シンガーソングライターと言っても過言ではない、イギリス人歌手のエド・シーランさん。2011年リリースのファーストアルバム『+(プラス)』、2014年のセカンドアルアム『x(マルティプライ)』が世界的超ヒットとなり、2017年にリリースされた最新の『÷(ディバイド)』も、数々の記録を塗り替える歴史的アルバムになっています。

エド・シーランさんがあるインタビューで『÷』制作時の心境を語った一言がとても印象的だったので、紹介します。

I wasn’t complacent.

自己満足しなかった。

彼が、2枚目のアルバムまでの成功に満足して、3枚目のアルバム制作に際し、より高みを目指す「必要性」を失っていたとしたら、『÷』が今のように世界中のファンを熱狂させる作品にはおそらくならなかったでしょう。
「自己満足していない状態」=「満足したいという必要性が生まれている状態」とも言えますよね。英語力 に関して も、 自己満足した時点で成長がストップする というのは事実だと思います。

誤解していただきたくないのは、自己満足が良くないと言っているのでは決してないということです。ただ、ずっと成長していきたいと思っている人にとっては、完全なる自己満足は足かせになり得ます。

僕の好きな女優、ニコール・キッドマンさんが仕事を選ぶ際、大きな指針としているのは、「その役が今までやったことがないタイプで、自分にとってチャレンジング かどうか 」だそうです。現状に自己満足せず、自分の能力を限界まで最大化する必要のある仕事に 取り組み 、常に、自分のコンフォートゾーンの外側であえてチャレンジしているからこそ、生き馬の目を抜くような業界で何十年にもわたって第一線で活躍されているんだなあと、その話を知ったときに深く感銘を受けました。

例えば、彼女の最新作の一つ『 Destroyer (原題)』(日本公開未定)では、人生に疲れ切り、大きな影を引きずる刑事を演じているのですが、その変貌ぶりは見事という他ありません。何も知らないでこの映画を見て、彼女が出てきたとき、ニコールと分かる人がどれくらいいるでしょうか?

挑戦しなくなったらもうそこで終わり、というくらいの凄み(すごみ)を彼女の姿勢からは学ばせてもらっています。

僕も勇気を持って必要性を作り出し続け、それに見合うような実力を付けていければと思っています。Slowly but surely.(ゆっくりと、でも確実に)。

では、次回の記事もお楽しみに!川合亮平でした。

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文:川合亮平(かわい・りょうへい)
通訳・翻訳者。最近の通訳実績はエディ・レッドメイン来日イベント(OMEGA主催)、TBSドラマ『グッドワイフ』制作会議など。関西のテレビ番組で紹介され、累計1万部を突破した『 「なんでやねん」を英語で言えますか? 』(KADOKAWA)をはじめ、著書・翻訳書・監修書は現在9冊。イギリス現地の観光・エンタメ・文化情報を伝えるジャーナリストとしても活動中。

ブログ: https://ameblo.jp/ryohei-kawai-blog/

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編集:GOTCHA!編集部/トップ画像の写真:山本高裕(GOTCHA!編集部)

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