「腸活」って英語でなんて言う?イギリスでアルファベット表を使った腸活がトレンドに!

イギリスでは昨今、腸の健康が注目を集めています。そのトレンドの背景や腸に良い食べ物、アルファベット表を使った腸活、さらには脳と腸がつながっているとされる「脳腸相関」などについて、イギリス在住ライターが詳しく紹介します。

gut healthがイギリスのトレンド!

イギリスでは近年、健康や美容、メンタルヘルスに関係した話題で「gut health(腸の健康)」という言葉をよく耳にするようになった。健康に関する本を読んだり、肌に良いレシピを探したりしていると、寒くて長い冬の間に陥りやすい「気分の落ち込み」といったテーマに関係して、必ずと言ってよいほどgut healthがキーワードとして出てくる。「腸」に関心を持つ人が増え、健康志向の人の間では「腸の健康」がブームになっているのだ。

gut healthに関心を持つ人の増加を受けて、イギリスでもケフィアヨーグルトやみそ、キムチといった発酵食品にも注目が集まっている。近年はこれらの発酵食品が一般的なスーパーの棚に並ぶようになったほどだ。

日本では「腸活」という言葉をよく目にするが、英語では「腸活」=「腸を健康に保つこと」という意味でkeep one’s gut healthyimprove one’s gut healthのように言うことができる。

脳と腸はつながっている「脳腸相関」

gut healthブームのおかげで、「ヒトの脳の状態は腸に影響を及ぼすし、逆に腸の状態も脳に影響を及ぼす」という「brain-gut axis(脳腸軸)」「brain-gut interaction(脳腸相関)」という考え方が広く知られるようになってきた。

今までも脳と腸の関係において、「脳から腸に情報が伝達する」というのは多くの人がなんとなく分かっていた。けれど最近の脳腸相関の研究から、脳と腸の間のシグナルの方向は脳から腸への一方的ではなく、「腸内細菌を介して、腸から脳にもシグナルを送っている!」ということが明らかになり、この「脳⇔腸の双方向性」という点が非常に衝撃的だった。

「脳の状態が腸に影響を及ぼし、逆に腸の状態も脳に影響を及ぼしている」ということは、「腸内環境を整えると、腸から脳への情報伝達を良くすることができる」ということ!この発見は、obesity(肥満)やmental health(メンタルヘルス)といった体と心の健康が大きな問題になっているイギリスで、現代社会の問題を解決する糸口として注目されているというわけなのだ。

緊張したり心配ごとがあったりすると、お腹が痛くなるという人もいるだろう。元々お腹の調子が悪かったわけではないが、不安なことが引き起こすストレスから、実際にお腹が痛くなったという経験がある人も多いのでは?反対に、お腹の調子が悪いことで気分まで悪くなったというのも多くの人が経験済みかと思う。

最近の研究では、腸にすみ付く微生物の存在(腸内細菌)が、腸から脳に送られる情報に大きく影響を与えることが分かっている。ストレスがあると腸内細菌の多様性が低下して、本来必要な腸内細菌の数が減ってしまうことや、不要な細菌が増えることが明らかになってきているのだ。

食べ物を見直すとストレスに強くなる

腸と脳が双方向に影響を及ぼしているbrain-gut interaction(脳腸相関)が解き明かされてきたおかげで、肥満やコロナ後のイギリスで大きな社会問題となっているメンタルヘルスに対して、今までとは違ったアプローチが期待されている。

例えば、ストレスや不安を感じているときに、ストレスを引き起こす状況や自分の感じ方をコントロールするのは難しい。それに、考え方の癖や性格を変えるのには時間がかかる。けれど、脳に影響を及ぼす「食べ物」なら次の食事から変えられる。ストレスを感じやすい自分の考え方は直しづらいと思う人でも、腸内環境を良くする食べ物を選ぶことならすぐに始められるだろう。

イギリスでgut healthがトレンドになった理由

最近のイギリスではgut healthに関する本やレシピがたくさん出ており、雑誌でも特集が組まれたりしている。イギリスでbrain-gut axis(脳腸軸)という考え方を広げる重要な役割を果たした中心人物は、ランガン・チャタジー博士(Dr Rangan Chatterjee)という医師だ。

チャタジー博士は、イギリスの公的保健医療制度の一部であるGP(general practitionerの略で「家庭医」のこと)として多くの患者の診察をしてきた。その豊富な経験と科学的データに基づき、本やポッドキャスト、SNSを通して健康や食事、運動、睡眠、ライフスタイルをテーマとした役立つ情報や具体的なアドバイスを発信している。多くの人に支持されるインフルエンサーだ。

チャタジー博士は著書『The Stress Solution』の中で、「脳と腸がお互いに影響を与え合っている」という脳腸軸の現象や、腸環境を良くすることの重要性を分かりやすく説明している。そして、チャタジー博士のSNSでの積極的な発信や他のインフルエンサーとのコラボが功を奏して、「腸の健康」の大切さがイギリスで浸透し始めたのだ。

gut healthにつながる「アルファベット表」って?

「腸環境を良くして腸から脳に送るシグナルを良いものにすると、心も体も健康になる」というアプローチが多くの人に受け入れられ浸透し始めたイギリス。では、gut healthを高める食材、腸内環境を良くする食べ物として、一体どんなものが推奨されているのだろう?

チャタジー博士は、腸内環境を良くするためには、「食物繊維を豊富に取り入れたバランスの良い食生活」と「運動の習慣」(運動不足になれば、腸の活動量も低下する)、「睡眠」が大切だと述べている。

食事にフォーカスして話を進めると、野菜、ブルーベリーやチェリーなどの低血糖の果物、豆や豆類などの食物繊維が豊富な食材を積極的に取ることを勧めている。とはいえ、食生活を改善するのにあまり難しい取り組みだとなかなか続けられない。しかし、チャタジー博士によると、腸内環境を整えるために意識することはまずは2つだけ。

それは、食物繊維が豊富な食材を選ぶことと、多様な食事を心掛けること!

そして、食物繊維が豊富な食材と多様な食材を選びやすいように、食材の「アルファベット表」を紹介している。

AからZで始まる食材が紹介されており、これらの食材を1カ月かけて食べれば食物繊維がたくさん取れて、多様性のある食事ができるというもの。例えば、A、B、Cから始まる食材は下の通り。

A:asparagus(アスパラガス)、apples(リンゴ)、artichokes(アーティチョーク ※チョウセンアザミのつぼみの部分)

B:bananas(バナナ)、berries(ベリー類)、bok choy(チンゲン菜)、broccoliブロッコリー、brussels sprouts(芽キャベツ)、beetroot(ビーツ)、black beans(黒豆)、Brazil nuts(ブラジルナッツ)

C:cocoa(ココア)、chickpeas(ひよこ豆)、cabbage(キャベツ)、celery(セロリ)、celeriac(セルリアック ※セロリの一種)、cauliflower(カリフラワー)、chard(チャード ※フダンソウとも呼ばれる、ほうれん草の仲間)、carrots(にんじん)、cucumbers(キュウリ)、cashew nuts(カシューナッツ)

アルファベット表の使い方は至って簡単で、アスパラガスかリンゴ、アーティチョークを食べたら「A」の欄にチェックを入れる。バナナやベリー類、豆を食べたら「B」の欄にチェックを入れていき、1カ月かけて全ての欄にチェックが入ったらGood!というわけだ。

この表は、チャタジー博士のサイトから無料でダウンロードできるので、気になった人はぜひ使ってみてほしい。

筆者の友人にも、普段食べる食材の幅を広げることを期待して、アルファベット表をプリントアウトし、冷蔵庫に貼っている人が何人かいる。彼らからは「アルファベット表を使い始めてから、diverseな(多様な)食材を使うようになった」「買い物中に、いつもと違う食材を必ず一つは選ぶようになった」「毎月一度は新しいメニューに挑戦するようになった」といった声が上がっている。

myアルファベット表を作るも良し!

チャタジー博士によれば、アルファベット表はあくまで目安。住んでいる環境や場所、好みに応じて適宜自由に調整してほしいし、現実的な目標として月に26種類の植物性食品を摂取することを目指してほしいと語っている。

確かにその通りで、アルファベット表を見てもらえば分かるが、例えば「E」はeggplant(ナス)とedamame beans(枝豆)なので日本にいても取り入れやすいが、「D」だとdandelion greens(タンポポの若葉)とdill(ディル ※ハーブの一種)といった日本では手に入りにくい食材が並んでいる。そういう場合は、「D」を大根やデコポン、デラウェア(ぶどうの一種)にするなど、場所や季節に応じて臨機応変に変えれば、この表がより使いやすくなるかもしれない

また、アルファベット表の「U」のurad dal(ウラドダル)はケツルアズキという真っ黒い豆らしいが、イギリスに住んでいる筆者でも日常的にお目にかかる食材ではない。そこでわが家では「U」はume(梅や梅干し)に変更し、挙句の果てには酸っぱいものつながりで酢の物を作れば「U」にチェックという具合にしている。また、「T」はturnips(カブ)とtomatoes(トマト)が参考食材として挙がっているが、ここにtofu(豆腐)やトウモロコシを加えると、食材の選択肢が広がる。

このように、多種類の食材をバランスよく食べる取り組みを促すものとして、自分なりのアルファベット表を作ってみるのも面白いかもしれない。

筆者も一時期アルファベット表を使っていたが、アルファベット表にチェックを入れて1カ月の間に食べた食材を見直したおかげで、気を付けないと食事メニューがマンネリ化しがちだということに気付いたのが最大の収穫だったと思う。アルファベット表で見える化して、「食材の多様性」を意識できたおかげで、普段買わない食材を買ってみたり、普段食べないようなメニューに外食先ではチャレンジしたり、腸に新しい細菌を入れてあげようと「腸を喜ばせる食事をする」という視点を持てたことが非常に良かった。というわけで、普段のメニューがマンネリ化していると感じる人は、「多様性」を広げる一助としてアルファベット表を使ってみるのも手かもしれない。

暑い夏の真っ最中は、つい喉越しがよく食べやすいものに偏ってしまいがちだが、 gut healthを意識した腸が喜ぶ食事で元気な腸と脳を作り、健康な体とご機嫌な脳で夏を乗り切りたいものだ。

奇麗なイギリス英語で聞く「美容と健康」

チャタジー博士が配信するポッドキャストでは、美容と健康に関する情報を毎週配信している。イギリスとヨーロッパで毎週150万もの人が聞いている大人気ポッドキャストだ。聞き取りやすいイギリス英語なので、リスニング学習にもおすすめ。

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ボッティング大田朋子
ボッティング大田朋子

イギリス在住ライター。アメリカ、ドイツ、インド、メキシコ、アルゼンチン、スペインに住み2016年よりイギリス在住。執筆書籍に『値段から世界が見える! 日本よりこんなに安い国、高い国』(朝日新書)、『ビックリ!!世界の小学生』(角川つばさ文庫)、『大好きに会いに行こう』(サンクチュアリ出版)等がある。 2017年から文部科学省検定済教科書(小・中学校外国語科)制作に参加中。世界100カ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員。ブログ「世界が拠点な生き方・子育てブログ

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