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茂木健一郎さんに聞く、英語の前に考えたい日本人のスピーチ力と雑談力

茂木健一郎さんに聞く、日本人にとって英語よりも大事なこと

日本人がコミュニケーションを取るときの強みとは?そして課題は何なのでしょう。脳科学者・茂木健一郎さんにお話しいただきます。

日本人のコミュニケーションの特徴

先日、日本に住むある外国人男性(H氏)とお話をしていた。

彼と会うと、いろいろ話すことがあって、あっという間に時間が経ってしまう。

そのうち、話題が「雑談」のことになった。

私が、「日本の雑談って、英語の会話と違うよね。訳そうとしても、small talk でも chat でもない気がするし」と言うと、H氏が、「そうなんだよ!」というように目を輝かせた。

「この前も、日本の大学で教えるアメリカ人と、日本語と英語での会話のやり方が違うということを話していたところなんだ」とH氏。

雑談は、日本人のコミュニケーションの特徴を表していて、それが強みにもなるし、課題にもなる。

そんなことを、H氏と話しているうちに、すっかり面白くなってきてしまった。

H氏との会話は英語で行われているので、雑談は「zatsudan」となる。

以下では、日本人の zatsudan 文化の可能性と課題について考えたい。

パブリック・スピーチが苦手な日本人

まず、課題の方から。

日本人は雑談が得意である。その一方で、雑談ではなかなか済まされないパブリック・スピーチが課題である。

たとえば、今や多くの人がパブリック・スピーチの最高の舞台の一つと認識しているTEDトーク

ステージに立った話者は、一秒目から無駄がなく本題に入り、完璧な構成で、最後まで駆け抜ける。そして、笑わせたり、感銘を与えたりしながら、「広めるに値するアイデア」(ideas worth spreading)を伝える。

TED のように洗練されていなくても、パブリック・スピーチは、明確な目的と構成を持ち、わかりやすく整理されたメッセージを聞き手に伝えなければならない。政治家や企業トップについては欠かせない技術であることはもちろんのこと、教育現場においても、パブリック・スピーチの技術を磨くことが重要な課題となる。

英語圏では、小学校くらいから、パブリック・スピーチの目的と組み立てについて学ぶ機会が多いので、実力の「裾野」が広がっている。

パブリック・スピーチについての人々の「耳」も肥えているし、期待水準も高い。だから、政治家や企業経営者も、パブリック・スピーチをうまくこなす人が多い。

ひるがえって、日本では、パブリック・スピーチさえも、雑談のように済ませてしまうケースが比較的多い。

政治家の場合、そのような「雑談」モードのなかで、つい口にしてはいけないことをしゃべってしまったり、その結果「炎上」して、発言自体を取り消すような窮地に追い込まれてしまうこともある。

パブリック・スピーチにおいては、日本に根付いている「雑談」文化は、とりあえず封印しておいた方がよいだろう。

幸せのもととなる zatsudan

一方で、雑談だからこその強みもある。

人は、リラックスしてしゃべっているときに一番会話が楽しめる。

日常における会話は、特に目的があるわけではない。むしろ、ごった煮の中でお互いの本音が出たり、気持ちが伝わったり、絆が深まったりすることもある。

雑談、すなわち zatsudan について対話したH氏が、しみじみ言っていた。

英語の会話では、誰かが何かを話し始めたときには、「導入」「展開」「結末」があることが期待される。

「結末」は、何らかのメッセージが込められている場合が多いし、できれば、「笑い」がある方がいい。

笑いがある場合には、結末は「おち」(punch line)となる。

だけど、日本語の雑談は、「導入」「展開」「結末」といった流れや、「おち」が求められない場合が多い。

「実際、うちの妻が話し始めると、何が言いたいのかわからないことが多いんだよね」とH氏。

H氏は、そのように話しながら、実に幸せそうだった。

H氏の奥さんは、日本人である。

日本語の雑談の方が、英語の会話よりも、縛りがないだけに、親しみを持ち、絆を深める上ではすぐれたフォーマットだと言えるのだろう。

雑談の背景にある多様性

雑談の背後にある日本の文化を突き詰めていくと、案外面白い。

たとえば、食卓に並ぶ食器は、欧米では一つの意匠で統一される場合が多い。

ところが、日本では、一つひとつの器が違っていてよい。人によって変わっていても構わない。

お茶席でも、器が違うことを楽しみ、一つひとつの器の「個性」と向き合う。

全体としての「統一」よりも、「多様性」の方が重視されるのである。

料理自体もそうで、会席料理に象徴されるように、さまざまな食材を、少しずつ食べるのが、日本人の好みである。

欧米のレストランに入った日本人観光客が、それぞれ注文した料理を分け合う光景がよく見られる。お行儀が悪いようで、実は合理的である。そのように、たくさんの料理を味わうことこそが、日本人にとっての喜びなのだ。

背景を探っていくと、「一神教」と「八百万の神」の違いにまで行き着くかもしれない

いずれにせよ、きらり、きらりと光った個性がたくさんごった煮になった状態を心地よいと感じる日本人の好みが、「雑談」での話題の選び方や、会話の流れにも反映されているように思う。

話題が飛んでも構わないし、全体として趣旨がわからなくてもいい。ましてや、メッセージなどなくてもいい。

ただ、いろいろと話題を並べて、終わったあと、「あー楽しかった」と感じられれば、それでよい。

「zatsudan」で世界へ!

このような日本人の「雑談力」は、これから、国際的な場面で案外強みになるかもしれない

もちろん、パブリック・スピーチはきちんとできた方がよい。

政治家や企業経営者はもちろん、そのほかの立場の方も、構成を練り上げた、明確なメッセージのある話ができるようになった方がよい。

その上で、日本人の特徴となる「雑談力」を発揮できたら、より立体的なかたちで自分の魅力をアピールできるようになるだろう。

日本発の「zatsudan」が世界共通語になる日が来るかもしれないのだ。

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茂木健一郎

茂木健一郎(もぎ けんいちろう)

1962年東京生まれ。脳科学者、作家。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院物理学専攻課程を修了、理学博士。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。

写真:山本高裕