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他人を決め付ける人が増えるほど、世の中は停滞する【茂木健一郎の言葉とコミュニケーション】

他人を決め付ける人が増えるほど、世の中は停滞する【茂木健一郎の言葉とコミュニケーション】

連載「言葉とコミュニケーション」第23回。今回は、「簡単に物事を決め付ける」ことの弊害について。アインシュタインに学べと茂木健一郎さんはおっしゃっています。

「決め付け」が生み出す弊害とは

コミュニケーションにおいて最も大切なことの一つは、「他人を決め付けないこと」だろう。

飲み会などで、時々、ハラハラすることがある。いい年をしたおじさまが、初対面の女性に、いろいろ質問をして決め付けている。
「君、何歳なの?」
「〇〇歳です」
「ああ、そう、それじゃあ、こうだね、ああだね、うんぬんかんぬん」

相手に年齢を聞いて、いろいろと決め付ける。「こうだね」「ああだね」「うんぬんかんぬん」のところには、実際には具体的な言葉が入るのだけれども、聞くに堪えない内容のことが多いので、省略する。

もちろん、決め付けるのはおじさまだけではない。いい年をしたおばさまもまた、お互いに相手を決め付けることがある。

年を重ねた人だけが決め付けるのではない。若者だって、学校名を聞いて、「ああ、そこは偏差値が低い所だ」とか、「Fランク大学だ」などと決め付けている。「スクールカースト」という言葉だって、社会学の中から出てきたらしいが、独り歩きすると、子どもたちの間に新たな「決め付け」を生みかねない。

他人のことを決め付けてしまうと、私たちのコミュニケーションからは柔軟性が失われる。何よりも、決め付けた人の認知プロセスが止まってしまう。それ以上学習することなしに、認知的な「引き込み」で固定点に留まってしまうのだ。

困ったことに、「決め付け」は単に頭が悪いとも言えない。というのも、もともと、人間の脳は世界を「パターン学習」して、さまざまなラベルを付けて理解し、判断するようにできているからだ。

本当の大物は「決め付け」をしない

生まれたばかりの子どもは、「年齢」で人が変わっていくことを知らない。「偏差値」も、「スクールカースト」という言葉も理解しない。「年齢」や「偏差値」、「スクールカースト」といった概念を獲得すること自体は、脳にとっては一歩前進である。

問題は、そのようなパターン化、ラベル化が、世界を把握する枠組みとしては粗すぎるということだ。世界はどんどん多様化しており、一つの属性だけで、人を評価することはできない。むしろ、そのような固定された価値観にこだわってしまうことで、その人自身が時代に取り残されてしまうことになる。

大切なのは、「判断保留」することである。例えば、年齢を聞いただけでは、その人がどのような人かはわからない。だから、すぐにその人はこうだと決め付けないで、判断保留して、じっくりその人を観察する。そのような「溜め」ができる人が、最もクリエイティブな人である。

教室でも、先生に何か説明されたときに、「ああ、分かった」とすぐに合点するような人は、案外伸びない。本当の大物は、「それってどういう意味かわからない」という表情をするような、世間的に言えばのみ込みが遅い人の中にいるものである。

物理学者のアインシュタインは、相対性理論を発見し、ブラックホールやタイムトラベルなどの画期的な理論を切り開いた天才だ。アインシュタインは、のみ込みが遅かった。大学の先生に、「君は絶対大したやつにならない」と断定されたくらいだ。

そのアインシュタインが、ニュートンの生み出した時空の概念を根底から覆すのだから、歴史は面白い。アインシュタインは、「時間」や「空間」といったものが最初から存在しているとは考えなかった。むしろ、「時間」とは何か、ある出来事と別の出来事が「同時」であるとはどういうことかという、根本にさかのぼって考え抜くことで、革命を起こしたのである。

アインシュタインに学ぶ、創造性の最高の形

人と人とのコミュニケーションは、アインシュタインに学ぶといい。年齢や性別、学校や職業で他人を決め付けるのではなく、判断を保留してじっくりと観察して、考える。そのような人が、現代において最もクリエイティブな存在になる。

「君何歳なの?」
「〇〇歳です」
「ああ、じゃあ、こうだね、ああだね、うんぬんかんぬん」

こういう人が残念なのは、他人を決め付けることだけではない。このような人は、実は、自分自身も決め付けてしまっているのである。

自分はこうだ、この組織の中で、こういうポジションだ。得意なことはこれで、苦手なことは、あれだ。そのような、さまざまなラベル付けで自分を決め付けてしまっている人が、他人もまた決め付ける。

創造性の最高の形は、自分が変わることである。自分はこういう人間だと決め付けている人には、もはや成長はない。

他人を決め付けることは、自分を決め付けること。

他人にさまざまな可能性を見いだす人は、自分にさまざまな可能性を見いだす人。

このような命題が本当にわかっている人は、そう簡単には他人を決め付けないはずだ。

他人を決め付ける人が増えるほど、世の中は停滞する。

自分を決め付ける人は、もはや成長が決まってしまう。

自分のためにも、他人のためにも、そう簡単に決め付けない方がいい。

考えてみれば、子どものころは、何も決め付けていなかった。子ども時代は、最も学びが多く、創造的な私たちだった。

ピカソの生涯の野心は、子どものようにとらわれずに書くことだったという。

決め付けないこと、とらわれないことで、自由という生命の源を手に入れることができるのである。

他人を決め付ける人は、他人に迷惑だけでなく、自分自身にとっても残念な存在だ。

残念な人になってはいけない。

創造性の最高の形は、自分が変わることである

おすすめの本

コミュニケーションにおける「アンチエイジング」をせよ。「バカの壁」があるからこそ、それを乗り越える喜びもある。日本の英語教育は、根本的な見直しが必要である。 別の世界を知る喜びがあるからこそ、外国語を学ぶ意味がある。英語のコメディを学ぶことは、広い世界へのパスポートなのだ――茂木 健一郎

デジタル時代の今だからこそ、考えるべきことは多くあります。日本語と英語……。自分でつむぐ言葉の意味をしっかりと理解し、周りの人たち、世界の人たちと幸せにつながれる方法を、脳科学者・茂木健一郎氏が提案します。

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Kenichiro Mogi

茂木健一郎(もぎ けんいちろう)

1962年東京生まれ。脳科学者、作家。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院物理学専攻課程を修了、理学博士。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。

写真:山本高裕