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Class dismissed.の意味は?映画『リトル・ダンサー』の文化的背景を探る【北村紗衣の英語】

文学&カルチャー英語

英語は、楽しい文学や映画、コメディーなどに触れながら学ぶと、習得しやすくなります。具体的な作品を取り上げて、英語の日常表現や奥深さを、シェイクスピア研究者で大学准教授、自称「不真面目な批評家」の北村紗衣さんが紹介します。連載「文学&カルチャー英語」の第4回は、1980年代のイングランド北東部が舞台の映画『リトル・ダンサー』です。

※テキスト中のリンクが表示されない場合は、オリジナルサイト<https://gotcha.alc.co.jp/entry/20191122-kitamura-literature-culture-4>でご覧ください。

『リトル・ダンサー』はイングランド北東部の英語

今回は、イングランド北部のダラムを舞台にした2000年の映画『リトル・ダンサー』(原題:Billy Elliot)を取り上げます。

リトル・ダンサー [DVD]

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この映画で話されているイングランド北東部の英語はあまり聞き取りやすくはありませんが、幸い、脚本家のリー・ホールが序文を付けた台本が刊行されているので、それを見ながら解説したいと思います。私は今年の春学期のゼミで学生と、この台本を使いながら映画を分析しました。

Billy Elliot (Screenplays)

Billy Elliot (Screenplays)

 

炭鉱町で育った少年がバレエダンサーを目指す

『リトル・ダンサー』は、1980年代、炭鉱閉鎖に揺れるダラムの町を舞台にしています。

ジェイミー・ベル演じる主人公の少年ビリー・エリオットは、炭鉱労働者の家庭の息子です。父ジャッキーも兄トニーも、炭鉱の閉鎖に反対するストライキに参加しています。

ビリーはひょんなことからバレエに関心を持ち、バレエのレッスンを行っているウィルキンソン先生から踊りを習うことになります。

ビリーには才能があることが分かりますが、伝統的な男らしさに誇りを持つジャッキーやトニーはバレエに偏見があり、ビリーの夢をなかなか認めてくれません。

さて、ビリーの将来は一体どうなるのだろうか、というお話です。

詳しいことは私が以前書いた別サイトの記事もご参照ください。

子どものせりふにもifのない仮定法の文が登場

子どもが主人公の映画だから、そんなに難しい表現はないだろうと思うかもしれませんが、前回の記事でも登場した、条件節のない帰結節だけの仮定法の文などがどんどん出てきます。

さらに、文化的な背景を理解していないと分かりづらい作品でもあります。例えば、ビリーがロンドンのバレエ学校受験について友達のマイケルに相談し、父にはまだこのことを打ち明けていないんだ、と言うと、マイケルは次のように返します。

He might be quite pleased about it. He could rent your room out.

親父さん、結構喜ぶかもしれないよ。おまえの部屋、貸せるようになるし。

まず、ここでマイケルは、If you went to London(もしおまえ[ビリー]がロンドンに行ったら)といった仮定をした上で、その帰結だけを言っています。

仮定法過去は、ifで導かれる条件節が過去形、帰結節が助動詞+動詞の原形で、現在の事実に反した仮定を示します。

rent your room outは文化の理解が必要で、イギリスでは間貸しが頻繁に行われていることが背景にあります。住宅事情が良くないため、台所などが付いたアパートを1人で一間、借りるよりは、人の家の一室を借りて、バスルームや台所は共同で使う間借りをする人が多いのです。

このマイケルのせりふについては、映画の最後で、ロンドンのバレエ学校への進学を怖がり、うまくいかなかったら帰ってきてもいいかと言うビリーに対して、ジャッキーがWe’ve let out your room.(部屋は貸しちゃったんだぞ)と言うオチがあります。

▼前回の仮定法の解説はこちら↓

gotcha.alc.co.jp

映画の文化的背景を台本の序文から知る

『リトル・ダンサー』は全体的に、文化的背景を知らないと分かりにくい映画です。

脚本家のリー・ホールが台本に寄せた序文に、この映画における文化的背景の重要性を説明した文章があります。この台本の中で最も難しい文章はたぶんこれなのですが、映画から離れてちょっと見てみましょう。

Growing up in the North East under Thatcher left the injustices that were perpetrated on hundreds of thousands of people indelibly stamped on my consciousness[.]

Introduction, p. x.

一読しただけでこの文構造把握できる人は多くないと思います。少しずつ見ていきましょう。

主語はGrowing ... Thatcherで、動詞がleft、目的語がthe injustices ... people、そしてindelibly stamped ... consciousnessが目的格補語です。

学校で習った5文型を思い出してください。主語+他動詞+目的語+目的格補語(SVOC)という文型があったと思います。目的語と目的格補語がイコールになります。

つまり、この文の構造は「Growing ... Thatcherがthe injusticesをstampedの状態にしたまま(left)だ」となります。次のような感じです。

【主語】Growing up / in the North East / under Thatcher

【動詞】left

【目的語】the injustices (that were perpetrated / on hundreds of thousands of people)

【目的格補語】indelibly stamped / on my consciousness[.]

次に、単語を見ていきます。

the North Eastは大文字で始まるので、固有名詞扱いだと推測できます。これはイングランドの「北東部」を指し、映画の舞台であるダラム近郊や、脚本家のリー・ホールが生まれたニューカッスル・アポン・タイン辺りを含みます。

Thatcherは、1980年代にイギリス首相だったマーガレット・サッチャーです(サッチャーについては別サイトの記事もご覧ください)。

つまり、「サッチャー政権下でイングランド北東部で育つこと」が主語です。

Growing up / in the North East / under Thatcher

育つこと/イングランド北東部で/サッチャー政権下で

目的語のthe injusticesには、主格の関係代名詞であるthatが係っています。hundreds of thousands of peopleは文字通りには「何十万もの人々」ですが、ここでは「あまたの人々」くらいでいいでしょう。perpetrateは犯罪などの「悪いことを行う」という意味の動詞です。

that were perpetratedは受動態で、that節はthe injusticesに係っているので、目的語の全体の意味は「あまたの人々に対して行われた不正」です。

the injustices (that were perpetrated / on hundreds of thousands of people)

不正/行われた/あまたの人々に対して

最後に、目的格補語であるindelibly stamped on my consciousnessを見ましょう。

indeliblyは、-deli-の部分がdeleteと重なる単語です。否定の接頭辞in-が付いていて、-lyと副詞になっているので、「消せない状態で」という意味です。stampは、「スタンプを押す」という意味から想像できるように、「刻印する」です。

つまり、目的格補語は「私の意識に消えない状態で刻まれている」となります。

indelibly stamped / on my consciousness[.]

消えない状態で刻まれている/私の意識に[。]

ここまで分かれば、意味が取れると思います。「サッチャー政権下、イングランド北東部で育つということは、あまたの人々に対して行われた不正を、私の意識に消えない状態で刻み込まれたままにしてしまった」というのが文字通りの意味です。

これだと日本語としてこなれていないので、もう少し読みやすくしましょう。無生物主語は「主語のせいで○○になった」のように訳す、ということを学校で習ったと思います。

つまりこの文は、「サッチャー政権下のイングランド北東部で育ったせいで、あまたの人々に対して行われた不正が、私の意識の中に消えることなく刻み込まれたままになってしまった」という意味です。

Growing up in the North East under Thatcher left the injustices that were perpetrated on hundreds of thousands of people indelibly stamped on my consciousness[.]

サッチャー政権下のイングランド北東部で育ったせいで、あまたの人々に対して行われた不正が、私の意識の中に消えることなく刻み込まれたままになってしまった[。]

この文は、構成が難しいだけではなく、サッチャー政権がイングランド北東部の炭鉱町を冷遇していたことを知らないと、よく理解できません。『リトル・ダンサー』自体が、サッチャー政権批判の映画でもあります。

授業中にこの文の意味がすぐ理解できた学生はほとんどいませんでしたが、それも当然です。しかしながら、英語の読解の目的は、こういう文を、背景を含めてちゃんと理解できるようになることなのです。

Class dismissed.の意味は?

相当に難しい文を取り上げたので、ちょっと簡単な表現を覚えて終わりにしましょう。

映画の序盤でウィルキンソン先生が、覚えておくとよさそうな、次の英文を言っています。

Class dismissed.

今日の授業(クラス/レッスン)はここまで。

ここでのdismissは「解散させる」という意味で、「クラス解散」、つまり「今日の授業はここまで」という決まり文句です。

それでは、この表現を覚えたところで、本日のレッスンもClass dismissed.としましょう。

北村紗衣

文:北村紗衣(きたむらさえ)

武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。著書に『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち──近世の観劇と読書』(白水社、2018)、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か──不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』(書誌侃侃房、2019)など。

ブログ:https://saebou.hatenablog.com/

編集:GOTCHA!編集部/トップ写真:山本高裕(GOTCHA!編集部)