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有名なキャッチフレーズ“I'm loving it.”は正しくない?【スーパー英会話表現】

有名なキャッチフレーズ“I'm loving it.”は正しくない?【スーパー英会話表現】

テレビコマーシャルなどが「文法的に間違った言葉」をあえて使うことの意味とは?英会話の達人、カン・アンドリュー・ハシモトさんと一緒に考えましょう。

「おーい、お茶」は“Hey,Tea!”ですよね?

「おーい、お茶」がキャッチコピー(英語ではcatch phrase/slogan/taglineと言います)のテレビコマーシャルをご存じですか?

もう何年も前から見かけるので、歴史が長いのかなと思って調べてみると、「お〜い、お茶」は商品名でもあり、発売は1989年(平成元年)とのこと。今から30年も前です(商品ロゴは「おーい」ではなく「お〜い」のようです)。

僕は初めてそのコマーシャルを見たときからずっと、お茶に向かって出演者が「おーい」と声をかけているのだと思っていました。お茶に「おーい」と呼びかけるとお茶があなたの元にやってくる・・・画期的な発想だ!と心の中で拍手していたのです。しかし、最近友人にそれを笑われ、僕の理解は間違っていると言われました。

友人:Is Tea your friend? Hey, Tea? What’s that supposed to mean? Doesn’t make any sense.
お茶は友達なのか? Hey, Teaだって?どういう意味だよ。意味不明だろ。

僕:Beauty and the Beast(美女と野獣)のMrs. Potts(ポット夫人)は元気がないBelle(主人公)にお茶をいれてくれただろ?そんな感じかな、と思って。

友人:Hey, Tea!ってお茶に声をかけると「ハーイ、僕を飲みなよ」って言いながら、お茶が来てくれるってこと?

僕:Yeah, I guess.
まあ、そういうことかなって。

友人:You’re poisoned by Disney movies, Kan.
Kanはディズニー映画の見過ぎだよ。

どや顔(smug look)の友人に彼の妻が言いました。

友人の妻:That’s what I thought, too. I thought it was humanized.
私もそう思った。擬人化されてるのかなって。

友人:Seriously?
本気?

友人の妻:じゃ、そのせりふは誰に向けられたもの?

友人:一緒に暮らしているパートナーに「お茶が飲みたい」って言ってるんだよ。

友人の妻:PleaseとかWill you?とかI’d likeとかって言葉はなく、ただ“Hey, tea!”なの?

友人:Sounds like that to me.
みたいだね。

友人の妻:それってincredibly rude(考えられないほど失礼)じゃない?

友人:昔の日本では、夫は妻にそういう言い方をしても許されていたらしい。

友人の妻:信じられないわ。

僕:昔っていつごろ?

友人:オレに聞かないでくれ。

僕:コマーシャルでは女の子だけが出演者で、彼女が「おーい、お茶」って言うversionもあるよ。

友人の妻:「おーい」ってYoo-hooってことでしょ。「ねえ」とか「すみません」より乱暴な言い方だよね?

少しの間黙ったあと、友人は言いました。

I’ll take it back.
取り消すよ。

妻は尋ねました。

Take back what?
取り消すって何を?

友人は答えました。

Every word I said about that commercial.
そのコマーシャルについて僕が言ったすべての言葉を。

数日後、僕はこのお茶のメーカーの「お客様相談室」というウェブサイトに上記の会話も書いてメールを出してみました。「おーい、お茶」は誰に向けられたせりふなのか、このせりふの本当の意味は何か、質問を送ってみました。まだその返事を頂いていませんが、届いたら皆さんにお伝えしたいです。

意図的に間違った文法にスリルを感じる

音楽を作る仕事をしていたときに僕も関わったことがあったので知っていますが、テレビコマーシャルの制作には考えられないくらい多くの人が携わっています。

それにもかかわらず、不思議な言い回しをときどき見かけます。それらはみな日本語が母語であるプロが書いているキャッチコピーです。意図的なものに違いありません。でも僕にはその意図が分からないものが少なくありません。

最近見つけた謎のフレーズはこれ。

「娘の肌荒れを、母の口内炎が心配している」

おかしいですよね?心配するのは母でしょ?口内炎(canker sore)は心配したりしないはずです。口内炎に心はないですから。娘の肌荒れ(rough skin)を「母の口内炎」ではなく、「口内炎の母」が心配している、が正しいと思うのです。どうなのでしょう・・・。それだと当たり前すぎてつまらない、心に残らない、ということなのかな。

歌詞を解説した回でもお話しました。テレビコマーシャルのキャッチコピーも歌詞と同様に、間違った文法をわざと使うことで生まれる違和感やスリルを大切にしているはずです。

「口内炎が心配する」に関して僕はスリルを感じることができませんでした(きっと僕にセンスがないからです)。しかしこのキャッチコピーでのテレビコマーシャルを今も見るということは、多くの関係者の了承(approval)を得て放映に至っている、そしてそれに関して今も問題はない、ということなのでしょう。

I’m loving it. は「どんどん好きになっていく」?

今回は、本当は文法が正しくない英語のcatch phraseを取り上げて、その意味や狙いを考えてみたいと思います。

まずはマクドナルドのこれ。

i’m lovin’ it.

これに関して「マクドナルド、大好きだ」「どんどんと好きになっていく」などと書かれた解説を見たことがありますが、最初にお伝えしたいです。この表現は英語としては間違っています。2003年からマクドナルドのキャッチコピーになり、あまりに多くこのフレーズを聞き過ぎているため、アメリカ人でもこのせりふに対して違和感を覚える人は今では少数です。

しかし、loveをlovingとして使うこの語法は、基本的には正しい表現ではありません。友人は言いました。

I accept it as it is. It’s a slogan. I wouldn’t say it though.
あれはあれでいいと思う。だってキャッチコピーでしょ。私はそうは言わないけど。

同じ2003年に、Justin Timberlakeの「I’m Lovin’ It」というヒット曲があります。マクドナルドとどちらが先かは分かりません。どちらにしても、正しくないからこそ生まれる違和感、刺激、スリルを僕はこのフレーズに感じます。

「あそこのランチ、どうだった?」
「うん、全然オーケーだったよ!」

この日本語の言い方と共通する点がある気がします。僕は「全然」という副詞は「〜ではない」という否定文にだけ使われる、と習いました。

でも、このような使い方は実際によく聞きます。「あの店のランチがおいしくないなんてことは全然なくて、オーケーだったよ」という意味が含まれているようにも感じます。これにも、正しい言い方でないからこそ感じさせてくれるスリルがあると思います。

友人は「私はそうは言わない」と言いましたが、マクドナルドのこのスローガンが生まれる前からloving/likingという表現は若者たちの間では使われていました。

カリフォルニアに住む、今は20代になった姪(めい)から“I’m liking my new school.”と書かれた手紙を、彼女が小学生のころにもらったことがあります。

何度も転びながらスケートボードの練習をしている息子に、母親が尋ねます。「大丈夫?」息子は膝をさすりながら答えます。“I’m loving it!”

クリスマスプレゼントにもらったNintendoのゲームに夢中の小学生の弟に、兄が尋ねます。“How do you like it?”(どう?)弟はゲーム機から目をそらさないまま答えます。“I’m so loving it!”

文法的には正しくありませんが、ずいぶん前からこんな使い方でときどき耳にする表現でした。

“I’m loving it!”は“I’m enjoying it!”をおおげさに言っている、そんな印象が僕にはあります。正しくない表現だからこそおおげさな感じが伝わる・・・。

近い日本語にあてはめてみると小学生の姪は「新しい学校、毎日チョー楽しい!」、スケートボード少年は「スケボー最高!」、ゲームに夢中の弟は「このゲーム、すっげえ面白い!」という感じでしょうか。

刺激に敏感な若い人たちは、ありきたりの言い方をつまらないと感じる、だから彼らはつまらないと感じた言葉を壊して新しい表現を作っていく。このフレーズにはそんな勢いを感じます。

若者たちだけが使っている言葉をいち早くピックアップしてコマーシャルに使うなんて、さすがマクドナルド。(ビッグマック, 大好きです!)

DifferentにこだわったAppleの創業者

次はこちら。1997年に発表されたアップル社のスローガン。

Think different.

「違った考え方をしよう」「違う風に考えよう」という意味ですが、このフレーズも文法的には間違っています。正しくは“Think differently.”ですよね。動詞を修飾する言葉は、形容詞ではなく副詞でなければいけないからです。

英語には、“Think big.”(「夢は大きく持とう」)という誰もが知っている言い回しがあります。

1959年に発表されたフォルクスワーゲンのスローガン“Think small.”も、北米では知らない人はいないでしょう。「私たちは細かいことにも注意して車を作っているよ(だから変な故障はない、心配しないで)」という思いが伝わります。

取引から生まれた“Think big, act small.”(大きく狙って、慎重に行け)という格言も有名です。英語圏の人間がアップル社のスローガンを聞けば、必ずこれらのフレーズを思い出すはずです。

“Think big./Think small.”は文法的には間違っていません。big/smallは形容詞であるとともに、副詞としても使われるからです。でもThink different.は間違っている・・・。

だからこそこれを聞いた人は「あれ?何か変だぞ、Something is strange. Something’s different.」と感じるはずです。文法が間違っているから生まれる違和感は、このスローガンが投げかける意味そのものです。Think differently.だとそう感じさせることはできません。スティーブ・ジョブズってやっぱりスゴイ。

2011年にウォルター・アイザックソンが書いたSteve Jobsというタイトルの伝記があります。そこにこんな文を見つけました。

They debated the grammatical issue: If “different” was supposed to modify the verb “think,” it should be an adverb, as in “think differently.” But Jobs insisted that he wanted “different” ... ‘Think differently’ wouldn’t hit the meaning for me.”
彼らは文法的な問題について議論した。thinkという動詞と共に使うならdifferentは変えるべきじゃないか、“think differently”として使うべきではないか、と。しかしジョブズはdifferentがいいんだと主張した・・・「“Think differently”じゃ僕にとっては意味がないんだ。

とても刺激的な会議だったのでしょうね(同席してみたかった)。

今回も最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。

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カン・アンドリュー・ハシモト

カン・アンドリュー・ハシモト
アメリカ合衆国ウィスコンシン州出身。教育・教養に関する音声・映像コンテンツ制作を手がける株式会社ジェイルハウス・ミュージック代表取締役。英語・日本語のバイリンガル。公益財団法人日本英語検定協会、文部科学省、法務省などの教育用映像(日本語版・英語版)の制作を多数担当する。また、作詞・作曲家として、NHK「みんなのうた」「おかあさんといっしょ」やCMに楽曲を提供している。9作目となる著作『外国人に「What?」と言わせない発音メソッド』(池田書店)が発売中。