GOTCHA!

英語、仕事、勉強。いろんな「わかった!」をお届け。

「IKIGAI(生きがい)」探し!ヨーロッパ中でひそかに流行⁈

「IKIGAI」探し!ヨーロッパ中でひそかに流行⁈

古くは「スシ」「ゲイシャ」「ニンジャ」。最近では「スードク」。海を渡って世界で使われていると言われる日本語がありますが、最近ではどの国でどんな単語が用いられているのでしょうか。世界80カ国以上の現地在住日本人ライターやカメラマンの集団「海外書き人クラブ」がリレー形式で担当する連載「世界のニホンゴ調査団」。第11回は、フランス在住のレリソン田島靖子がレポートします。

UMAMIの次に定着した、意外な日本語

「IKIGAI(生きがい)」という日本語が、数年前からヨーロッパで定着しつつあるのをご存じでしたか?筆者の住むフランスでは、今のところ「UMAMI(うま味)」と同じ程度の定着ぐあいを体感しています。英語やフランス語には直訳語が存在しないことから、日本独特の「幸せに長生きする」ための価値観として注目されているのです。

とはいえフランスは、泣く子も黙るバカンス大国。特に私が住む南フランスでは、カフェや公園で昼間からビールを飲んでまったりする大人はいくらでも見かけますが、スーツを着て早足で歩くおじさんをたまに見つけると、とてもレアな感じがします。

なんだか働きづめの日本人よりよっぽど人生を謳歌しているように見える……。

そんな彼らが、日本人の生き方のどこに幸せのヒントを求めるというのでしょう。ちょっと不思議に思いませんか?

南仏エクサンプロヴァンスのカフェでくつろぐ人々

南仏エクサンプロヴァンスのカフェでくつろぐ人々

IKIGAIって何?

There is no direct English translation, but it’s a term that embodies the idea of happiness in living. Essentially, ikigai is the reason why you get up in the morning.
英語での直訳は存在しないが、人生における幸せの考え方を表現した言葉である。一言で言うと、朝起きる理由、それが生きがいである。

www.bbc.com

イギリスBBCのブログでは、上のように紹介されています。今ではヨーロッパ中で、自己啓発系ワードとして注目を集めるようになりました。きっかけとなったのは2016年に出版された一冊の本でした。

今では「ikigai」と名の付いた本がたくさん出版されているが、元祖はこれ(左は文庫版)。写真はフランス語版

今では「ikigai」と名の付いた本がたくさん出版されているが、元祖はこれ(左は文庫版)。写真はフランス語版

著者であるスペイン人のエクトル・ガルシア氏は、IT企業に勤めるエンジニアとして15年前に来日。朝から晩まで仕事に追われる中で、人生の意味が分からなくなってきたといいます。

そんなとき、旅先の沖縄県大宜味(おおぎみ)村で、幸せそうに生きる長寿の人々に出会い、彼らとのやりとりを通して日本人の人生観を学びました。

本の中では健康に年を重ねる秘訣として、島の人たちが実践している「腹八分」「楽観的に生きる」「さんぴん茶」などの具体的なキーワードが紹介されています。

生きる意味をもたらし、長寿にもつながる「生きがい」の見つけ方について、著者は下図のように表しています。

Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life, Hutchinson, 2017より

Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life, Hutchinson, 2017より

このチャートによれば、「あなたが好きなこと」「あなたが得意なこと」「社会から必要とされること」「収入が得られること」が重なり合った中心に生きがいがあります。

「ん?収入?」というところで日本人なら引っかかるかもしれません。「孫が生きがい」などと言う通り、日本で使われている「生きがい」は一般的に報酬とは関係がなく、その点が少し違っていますよね。

そう、ヨーロッパで特徴的なのは、読者が「生きがい」の考え方を主に仕事における自己実現の文脈で使っていることです。景気の低迷で不安定感が増し、好きなことで生計を立てることのできないもどかしさを感じる今だからこそ、ヨーロッパの人たちが「生きがい」の考え方に新鮮さを感じたのがよく分かります。

フランス人にとって、仕事は生きがいになり得るのか

この本が各国語に翻訳されベストセラーになるとともに、上記のチャートは特に有名になり、例えばフランスでは職業安定所のオリエンテーションや一般企業の社内研修などでも使われるようになりました。

従業員のやる気を向上させるために「生きがい」の考え方を説くというのは、フランス人相手に果たして有効なのかは分かりませんが・・・。

勤務中なのか休憩中なのかすら分からない、自然体すぎる接客態度にすっかり慣れてきた私としては、フランス人にはこのままでいてほしいような気もします。

人生を楽しむことに貪欲なイメージのあるフランス人ですが、バカンス中心に生活が成り立っている分、仕事において生きがいを感じている人は少ないのかもしれません。

身をすり減らすほど仕事を頑張ってしまう人がゴロゴロいる日本と比べれば、すがすがしいほど仕事に心がこもっていないなあと驚くこともしばしば。どんなに地味に見える仕事でも、自分の生きざまに直結するような心のこもった仕事の仕方をしている人は、やはり尊いと思います。先に紹介したブログには次のような記述もありました。

When retirement comes, it is helpful to have a clear understanding of why you do what you do beyond collecting a payslip.
給料をもらうという目的のほかに、あなたはなぜその仕事をしているのか。それをよく理解しておくことは、リタイア後の人生の糧となるでしょう。

フランスもなかなかの長寿国

フランスは、WHOの平均寿命ランキング(2018年)では世界4位につける

フランスは、WHOの平均寿命ランキング(2018年)では世界4位につける

ガルシア氏の本『Ikigai』には、長寿の秘訣として「一番大事なのは笑うこと。私なら、どこに行ったって笑ってるよ」と答えたお年寄りが出てきていました。幸せや健康の基準は、社会ではなく自分自身が決めるもの。長生きしている人たちの顔を見ていると、改めてそんなふうに思います。

海外書き人クラブ

文:海外書き人クラブ・レリソン田島靖子
http://www.kaigaikakibito.com/blog/