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ラティーノ、ヒスパニックとは?現代アメリカ社会を読み解く英語キーワード

アメリカ社会のラティーノ

「ラティーノ」を知っていますか?アメリカ社会でかつて「ヒスパニック」と呼ばれていた人たちが、今ではラティーノと呼ばれることが多くなっています。人口の割合としても社会や文化などへの影響力としても大きな存在です。現代アメリカを理解する上で欠かせないラティーノについて、その定義から影響まで、ラティーノ・黒人文化や移民を専門とする文化人類学者で、多文化コンサルタントでもある三吉美加さんが紹介します。第1回は「ラティーノの定義」についてです。

日本でもよく知られているラティーノの有名人

こんにちは!皆さんは「Latino/ラティーノ」という言葉をご存じですか。ラティーノとは、「本人あるいは先祖が(カリブ海地域を含む)ラテンアメリカのスペイン語圏出身の人 」を指します(詳細は後述)。

音楽が好きなら、サルサやレゲトンなどラティーノの音楽を知っている方もいらっしゃるでしょう。アーティストや俳優として日本でも知られている有名なラティーノたちが大勢います。ジェニファー・ロペス、リッキー・マーティン、クリスティーナ・アギレラ、ピットブル、ベニチオ・デル・トロ、キャメロン・ディアス、セレナ・ゴメスなど、挙げればきりがありません!

コンビニでも見掛けるようになったタコスやナチョスはメキシカンフードですが、これはラティーノフードという言い方もできます。

野球好きの方なら、元大リーガーの超有名人、アレックス・ロドリゲスやサミー・ソーサがドミニカ系だとご存じでしょうが、彼らもラティーノです。

ラティーノという言葉自体は日本ではまだまだ知名度が低いですが、皆さんが知っているアメリカ人の中にラティーノがたくさんいます。

また、ニュースで「トランプ大統領を支持するラティーノの割合少ない」「トランプ政権の移民政策に反対して大勢のラティーノがデモを起こしている」などと聞いた覚えがあるかもしれませんね。

ラティーノを知ると、アメリカ社会がよく見えてきます。ラティーノを知らずして、今のアメリカ社会を知ることはできないと言っても過言ではありません。

ラティーノの圧倒的な存在感

アメリカ(合衆国)のラティーノは全人口の約18パーセントで、5900万人を超えています。その数は今後も確実に増加していきます。2040年代には全人口の25パーセントを超えると見込まれていますから、あと20年程度でアメリカ人の4人に1人はラティーノになるのです。

アメリカのラティーノの大部分がスペイン語を話し、白人ではないピープル・オブ・カラー(people of color)の割合が高く、多くがキリスト教カトリックの信者です。このことが、アメリカの保守派の懸念するところとなっています。というのも、The United States of America(USA)という国は建国以来、「英語の国」「アングロサクソン系(いわゆる白人)の国」「プロテスタントの国」であることが大前提とされてきたからです(実は英語が国の公用語とは制定されていません)。

保守派は、このままラティーノが増加し続けると、「この国の伝統が崩れる」「USAがおかしな方向に向かう」と考えるわけです。生活の中でも、「ラティーノ移民のせいで失業した」「ラティーノ移民のせいでわが子の通う学校の質が低下した」と訴える人も少なくありません。こうした層がトランプ政権や共和党の支持者になっています。

「非合法移民」「不法移民」を表す英語表現

アメリカへの移民は世界各地からやって来ますが、移民政策においては、特に非合法入国が多いメキシコ国境での取り締まりに焦点が合わせられています。最近では、2018年10月から中米諸国の人々がアメリカを目指して徒歩で北上を続けた「キャラバン」が話題になりましたが、トランプ大統領は彼らを「危険な存在」とし、亡命申請を受け付けないという強硬な態度を取っています。日本のメディアではあまり取り上げられなくなりましたが、新しいキャラバン隊は今もなおメキシコに押し寄せています。

英語では、非合法移民をundocumented immigrantsと言います。ひと昔前まではillegal immigrants(不法移民)と呼ばれていましたが、今ではこの言い方は好ましくないという見方が広がっています。しかし今もillegalを使うメディアもあります。どの語が使われるかによって、そのメディアの政治的な立ち位置が見えますね。

メキシコ国境から入国してくる(必ずしもメキシコ人だけではない)人をなんとか食い止めようと、トランプ大統領が壁の建設に躍起になっています。その背後には、彼の大勢の支援者がいます。最近では、トランプ大統領は壁を建設するための資金を捻出しようと国家非常事態宣言まで出しました。建設費用の予算はなんと約57億ドルだそうです。しかし同時に、こういった政策に対する「NO!」の声もどんどん強まっています。この先どのように展開していくのでしょうか。

「ラティーノ」の定義

国によって、政治的立場によって、また時代によっても、人の集団についての説明や定義は異なりますし、時間とともに変わっていくことも常です。ですから、ラティーノという言葉に関しても、全ての人を納得させるような定義をすることはできません。そのことをご理解いただいた上で、「これだけ知っていたら大抵の場合は大丈夫!」という定義を紹介します。

ラティーノとは、本人あるいは先祖が(カリブ海地域を含む)ラテンアメリカのスペイン語圏出身の人を指します。

ラテンアメリカとは、アメリカ大陸のメキシコ以南の地域で、カリブ海の島々も含みます。ラテンアメリカのスペイン語圏は、北米のメキシコ、中米のグアテマラ、ベリーズ(公用語ではないが広く使用されている)、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカ、パナマ、カリブ海地域ではキューバ、ドミニカ共和国、プエルトリコ(アメリカ合衆国の自治領)、南米のコロンビア、エクアドル、ベネズエラ、ボリビア、アルゼンチン、チリ、パラグアイ、ウルグアイです。

この定義について注意すべきポイントが2つあります。

(1) ラティーノとは、ラテンアメリカにおける、スペイン語を使うことやその言語が使われる文化圏への愛着を表すアイデンティティーです。しかし、本人がスペイン語を話せるかどうかは関係ありません。

(2) ラティーノは、特定の人種を表す言葉ではありません。ラティーノには、白人、黒人、混血、先住民系、アジア系、ユダヤ系などあらゆる人々が含まれます。ただし、一般にラティーノがbrown(褐色の肌をした)と表されることもあります。これは褐色の肌をした人が多いからでしょう。brownという言い方が広まっているので、アメリカ社会ではラティーノを人種集団と思っている人が多いのですが、これは間違いです。

ラティーノかどうかは本人が決める

ラティーノの統計を取るような場合には上記の定義に従うでしょうが、日常生活ではいろいろな判断があります。

例えば、南米のポルトガル語圏ブラジルから来て、今アメリカに住んでいる人が自分はラティーノだと言ったり、親がプエルトリコ出身、自分はニューヨーク生まれでスペイン語を話さない人が自分をラティーノと思っていたりします。

また、自分はメキシコ系4世なのだけど、メキシコに関わりなく生きているという人もいます。そのような人の中には、スペイン語を話さないから自分がラティーノだと思ったことはないという人もいるでしょうね。

このように、「自分が〇〇人かどうかは自分で決める!」という考え方がアメリカ社会では一般的です。そうなると、人それぞれに、〇〇集団とか〇〇人についての解釈が進むので、定義付けはますます複雑になります。

「ヒスパニック」の定義

「ラティーノ」と同じように使われている「ヒスパニック」という言葉があります。基本的には同じ意味合いと考えてOKです。でも、こういう言い方をされると、少しは違うのかと気になりますよね。では、かいつまんで説明しましょう。

「ラティーノ」には「ラテンアメリカ出身」というニュアンスがあるのに対して、「ヒスパニック」には「イベリア半島(つまり、スペインですね)出身」というニュアンスがあります。「ヒスパニック」にこだわっている人がいるとすれば、おそらく自分が白人である、スペイン系であるという部分を大事にしている人かもしれません。

大まかに言うと、政治・経済の話題では「ヒスパニック」、文化や人についての話では「ラティーノ」が使われる傾向があります。ラティーノという呼び方は、1990年代に市民権を得た、比較的、新しい言葉です。本人たちは(細かいことを言うと、これまた地域差やエスニック集団によって違うのですが)ラティーノと呼ばれるのを好むとされています。

オバマ政権時に、それまで政府系機関の発表などで「ヒスパニック」という単語ばかりが使用されていた状況を変えていこう、「ラティーノ」を広めようという動きがありました。今では国勢調査にも「ラティーノ」が使われています。

Latino、Latina、Latinos、Latinx、Latinxsとは

スペイン語では、Latino(ラティーノ)は男性を指し、女性の場合はLatina(ラティーナ)になります。2人以上の集団の場合、女性がいても複数形はLatinosと表します。アメリカ社会に生きるラティーノたちには、これを嫌だと思う人が多いのです。

そこで、gender-neutralな(ジェンダーを表さない)表現が広まってきています。それが、Latino、Latina改め、Latinx(ラティニクス)複数形はLatinxsです。

この新しい言葉をもって、ジェンダー、人種、文化、性的指向などのさまざまな違いを超えて、ラティーノたちが1つになろうという意味合いも加わりました。言葉の変化の背後に、人の思考や社会が関わっていることを感じますね。

かつてアメリカ公民権運動の中で人々は「We shall overcome!」(同名の有名な歌より)と叫びました。今、ラティーノたちの集まりでは「We shall overwhelm!」が聞こえてきます。とにかく人口が多いわけですから、なるほど!です。

Latinx、Latinxsは、知らない人もまだまだ多い単語です。知っていたら、日本ではかなりのラティーノ通ですよ!

次回はラティーノカルチャーを紹介します。

ラティーノを知るための本

アメリカのラティーノの概要と、5大ラティーノ集団(メキシコ系、プエルトリコ系、サルバドル系、キューバ系、ドミニカ系)の移住の歴史や社会について解説している、三吉美加さんの本です。

米国のラティーノ (ASシリーズ 第 13巻)

米国のラティーノ (ASシリーズ 第 13巻)

 

世界で使える英語が身に付く英語教材

三吉美加さんがコーチ陣の一人を務める、聞ける!話せる!英語教材「1000時間ヒアリングマラソン」では、リアルな英語でリアルな世界を学べます。

1000時間ヒアリングマラソン

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三吉美加

文:三吉美加(みよし みか)

多文化コンサルタント。文化人類学の視点から、さまざまな顧客に対する配慮やサービスの仕方、具体的なプランを提案している。ライフコーチングおよびタロットリーダーとしても活動。東京大学大学院学術研究員(文化人類学)。専門は米国・カリブ海地域のラティーノ・黒人文化、移民。「1000時間ヒアリングマラソン」の「カルチャー再発見」コーナー担当コーチ。

編集:GOTCHA!編集部