ネイティブが仮定法に込める「キモチ」って?

どうにもこうにも苦手な人が多い「英文法」。その中でも特に「仮定法」と聞くと、顔が曇る方も多いでしょう。「if を使い、 とりあえず 時制をずらして……」なんて、文法のルールは覚えていても、なぜこれが必要なの?なんて、考えたことはありますか?実は仮定法は「話し手の気持ちを表す」ために、とても便利に使うことができます。アルクの月刊誌『ENGLISH JOURNAL』に実際に登場した例を使って、ご紹介します。

CD付 ENGLISH JOURNAL (イングリッシュジャーナル) 2019年3月号
  • 出版社: アルク
  • 発売日: 2019/02/06
  • メディア: 雑誌

仮定法はなぜ必要なのか?

英語の学習を進めるとき、おそらく多くの人がつまずく文法項目、それが「仮定法」。英文の「見た目」と「実際に語られている」時制のズレに戸惑う人も多いのでは。テストのときにもたくさん間違えたし、「これって本当にこの文法を使わなきゃ、表現できない話なの……?」と思ったこともあるでしょう。

そんな仮定法が表す意味やその必要性について、『世界一わかりやすい英文法の授業』などでおなじみの関正生先生は、こう説明しています。

仮定法は「ありえない」ことを言うとき、つまり「妄想」について話すときに使います。もちろん日本語にも妄想はありますが、日本語と英語では「妄想の言い方」が決定的に違います。

日本語は「妄想なのか、本気で思っているのか」を明確に分けて示すことはなく、「空気を読む」必要があります。一方、英語の世界では「今、私が言っていることは妄想です」と明確に示す必要があり、そのための道具が仮定法というわけなのです。

「仮定法」は英語学の世界では「叙想法」と呼ばれます。その「叙想法」は、英語では subjunctive mood と言います。 ちなみに mood という単語は「ムード(雰囲気)」ではなく、「気持ち」という意味です。仮定法には mood(気持ち)が込められるんです。「もし~できたら……。でも実際はできない。残念だ」という気持ちを伝えるのが仮定法の役目です。

仮定法は現実ではないことを明確にし、それに対する何らかの気持ちを一緒に伝える役割を持っている、ということですね。

仮定法を使わないと、どうなるの?

仮定法の構文で有名なものといえば、“if it were not for ~”(もし、~がなかったら)です。ここでは、“if it were not for 仮定法”(もし、仮定法がなかったら)、これまで仮定法を使って表していた文はどうしたらいいのか、考えてみましょう。

If I were you, I would see a doctor.(私だったら、医者に診てもらうだろう)

You have to make the choice, but I really think you should see a doctor.
(あなたが選択すべきことだが、私は、あなたは医者に診てもらうべきだと本当に思う)

「私だったら」に込められた気持ちをしっかり説明しようとしたため、ちょっとまわりくどくなってしまいますが、伝えたかった気持ちはこんなふうになるでしょう。
Had it not been for the poor service , the restaurant would have been perfect.(ひどいサービスがなかったら、そのレストランは完璧だったろうに)

Everything about the restaurant was good except for the service , which was very disappointing .
(そのレストランのサービスにはとてもがっかりしたが、それ以外はすべてよかった)

元の仮定法の文が含んでいた内容は、「レストランのサービスがひどかった」という事実の説明だけでなく、「それに対して残念だと感じた」という気持ちが含まれています。それらをすべて言葉にして説明しようとしたのが下の文で、やはり言葉数が多く、ちょっと長くなってしまいますね。

ネイティブは本当に仮定法を使っているの?

ここまで、「仮定法は気持ちを伝えるもの」だというをしてきました。

そして、仮定法を使わなかったとしても、少し回りくどくなるものの、同じ意味を伝えることはできる、ということもわかりました。そうするとやはり、「仮定法はいらない」のでしょうか?

いえ、そんなことはありません。むしろ、ネイティブスピーカーもとてもよく仮定法を使います。

では実際、ネイティブスピーカーなら、どんなときに仮定法を使うのか、見てみましょう。2018年2月号~2019年1月号までの『ENGLISH JOURNAL』の中から、ネイティブの発言を調査してみました。

2018年3月号 マット・デイモン

I would ’ve done the phone book if he’d asked me to do that, but instead , he asked me to do this incredible script and, as we’ve been saying, it’s just so unique .
(彼[アレクサンダー・ペイン監督]にやってくれと頼まれたら、電話帳だって読んだと思いますが、それどころか、彼が頼んできたのはこんな素晴らしい脚本でしたし、さっきから申し上げていることですが、この脚本は本当に独創的です)

自身の主演映画『ダウンサイズ』について語り、その監督を務めたアレクサンダー・ペインのことを褒める文脈で登場しています。実際に監督が「電話帳を読んでくれ」とマット・デイモンに頼むことはありえませんが、「もしそれがありえたとしても……」という仮定で述べています。

また、ここについて関先生は「後半(but 以降)は単に asked という過去形が使われて、仮定法ではなく現実のことを語っています。その妄想から現実に切り替わる際に、 instead が効果的に使われていることにも注目してください」と解説しています。

ここの instead は「(電話帳を読むという)妄想の内容の代わりに、現実では」といったニュアンスを表現しているとのことです。

2018年11月号 ウディ・ハレルソン

He wouldn’t say it like that.
(彼ならこんな言い方はしないはずだ)

こちらは一見、「本当に仮定法?」と思った方もいるのでは。このような仮定法を「主語に仮定の意味が込められたパターンで、『彼は』ではなく『彼なら(彼だったら)』のように解釈しましょう。」と関先生はコメント。仮定法には必ずしも if 節があるわけではないということも覚えておきましょう。

仮定法のルールをおさらいしよう!

『ENGLISH JOURNAL』2019年3月号では、仮定法のルールについて、関先生が徹底解説。よく使う公式に則った仮定法から、if の倒置、また、先ほどの例にも登場した「if 節のない仮定法」などについても説明しています。この特集を読めば「仮定法=if」という認識ではなくなるはずです。

「文法ルールはわかっているよ」という方も、その英文に込められた意味や、実際の使われ方など、より深く確認してみてください。

CD付 ENGLISH JOURNAL (イングリッシュジャーナル) 2019年3月号
  • 出版社: アルク
  • 発売日: 2019/02/06
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構成・文:江頭 茉里
ENGLISH JOURNAL編集部員。夢は自分が編集した本ばっかりの本棚を作ること。 熱しやすく、冷めにくい。好きなもの・趣味が多すぎるのが悩み。

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