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英語学習を制するのは「ハンディキャップ理論」の王者である

英語学習を制するのは「ハンディキャップ理論」の王者である

日本人に根強く残る「ネイティブ信仰」に物申す!脳科学者・茂木健一郎さんが考える魅力的な英語学習者とは?連載「言葉とコミュニケーション」、半年ぶりの復活です。

非ネイティブと話すことの意味

日本人の英語観の中に根強くある「信仰」として、「ネイティブ」が良い、というものがある。

とにかくネイティブの英語に近づかなくてはならない、そうでない英語はみっともないといった強迫観念のようなものがある。

しかし、このネイティブ信仰から脱しなければ、日本人の英語は上達しないし使い物にならないと断言できる。

実際的な側面から見れば、私たちが今後、英語で会話を交わす可能性が極めて高いのは英語が母語ではない人たちである。特に、日本はもともとアジアに位置する国なのだから、中国や韓国、フィリピン、タイ、インドネシア、ベトナムなどの方々と共通言語としての英語を通して会話する機会が実際に多いし、これからも増えていくだろう。

そんなときに必要なのは、少しなまった英語を聞き取り、理解する能力である。「私はネイティブの発音じゃないと分かりません」と言っていても、仕方がない。

少しなまった英語は確かに聞き取りにくいが、見方を変えれば脳の認知プロセスに負荷をかける「負荷トレーニング」にもなっている。

非ネイティブの人と話す方が、認知的負荷が高いのだ。

この「認知的負荷」は、日本人が英語にこれからどう接していくかを考える上で鍵になるコンセプトである。

「ハンディキャップ理論」から英語を考える

進化生物学に「ハンディキャップ理論」というものがある。

今、二人の男性が全く同じように走っているとする。一人は何も持たずに走っているが、もう一人は重い物を両手に持って走っている。この二人のうち、どちらが魅力的に見えるか。

「ハンディキャップ理論」に従えば、重いものを持っているにもかかわらず同じように走っている人の方が魅力的に見えるはずだ。なぜならば、その人は、生物としてより負荷の高い行動をできるだけの能力と意志を持っているのだから。

クジャクのオスが、いろいろと邪魔になるしその維持にも膨大なエネルギーを使うのにもかかわらずあの見事な羽根をたくわえていることも、「ハンディキャップ理論」で説明できる。その方がメスにとって魅力的に見えるのだ。

「ハンディキャップ理論」を英語に当てはめてみれば、ネイティブよりも非ネイティブの方が当然のことながら認知的負荷は高い。ネイティブにとっては英語を話せるのは当たり前で、別に自慢できることでもすべきことではないが、非ネイティブが英語を勉強するのは努力してそうしているのであって、それだけ頑張らないといけないからである。

そういうこともあって、私自身は、非ネイティブの方が英語を一生懸命話している様子を見ると、とても魅力的に感じる。

もちろん、ネイティブの方でも、その方の人格や価値観などに魅了されることはあるけれども、それは、英語を話すということとは別の話だ。

「ハンディキャップ理論」を当てはめれば、日本人の一部に見られるネイティブ英語信仰はほんとうにおかしな話だと思う。

ところで、この「ハンディキャップ理論」は、英語にとどまらず、コミュニケーション全般について言うことができる。

魅力的に見える人は「炎上」しやすい?

最近の世の中を見ていると、目立ったり、有名だったり、評価が高かったり、あるいはカリスマ性がある人を見ていると、単に時流に押し流されるのではなく、自分の意見をはっきり言って、ときには「炎上」しているような人が多い。

日本人は同化圧力が高く、とにかく目立たずに地味に無事にと思いがちだけれども、そのような方々からはなかなかスターが出ないようだ。

時々炎上するくらいの人の方が人気があるし、注目も浴びる。

このような現象も、「ハンディキャップ理論」で説明できる。世の中の反発を受けたり、炎上したりすることはそれなりにキツイことである。

それにもかかわらず、自分の意見を言ったり、好きな道を行ったりできている人は、大勢迎合でつつがなく行っている人に比べて、生物として元気に見えるし、能力やポテンシャルも高いように見える。結果として、そのような人が魅力的に見えて、評価も上がるのも当然のことかもしれない

ましてや、世の中は既成の価値観や秩序を壊してでも新しいものを生み出すという「破壊的イノベーション」の時代である。

少しぐらい逆風を受けても、それをものともせずわが道を行く人の方が、「ハンディキャップ理論」的にすてきである。

裏を返せば、英語でやたらと「ネイティブが大事」「ネイティブに価値がある」と主張するタイプの人は、日本の社会の中では大勢迎合的な行動を取るのかもしれない。英語においても、日本という世間においても、「ハンディキャップ理論」的に言えば、少々認知的負荷が高くてもがんばる人の方が魅力的なのである。

もっとも、「ハンディキャップ理論」のポイントは、負荷がかかっているにもかかわらず伸び伸びと自由に発言し、行動するということ。

羽根が重いなあとため息をついているクジャクはちょっとまずい。

ネイティブと発音が違うとか、文法が間違っているといちいち気にしていたら、コミュニケーションが成り立たない。世間の反発を受けて炎上する度に愚痴をこぼしている人は少しどうかと思う。

大切なのは、どんな状況でも、伸び伸びと自由に自分を表現できること。それが本当の意味での「ハンディキャップ理論」の王者である。

大切なのは、どんな状況でも、伸び伸びと自由に自分を表現できること。

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茂木健一郎(もぎ けんいちろう)

1962年東京生まれ。脳科学者、作家。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院物理学専攻課程を修了、理学博士。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。

写真:山本高裕