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あなたはプラトン派?アリストテレス派?【ビジネスのための英語と教養】

アートでビジネス力UP

連載「アートでビジネス力UP」の最終回は、いよいよ実践編です。ルネサンス時代の1枚の絵を鑑賞しながら、当時の思想や、それが現代の私たちにどう影響を与えているかを見ていきます。哲学について気軽に話せる英会話術も学びますよ。講師は、「英語でアート」が学べるスクール、Art Allianceを主宰する宮本由紀さんです。

前回は、「英語でアート」を学ぶ理由について書きました。今回は、アート作品を実際に解読してみましょう。取り上げるのは、ラファエロ(Raphael)の名画、「アテネの学堂(School of Athens)」です。

ルネサンスの巨匠、ラファエロによるこの壁画作品を読み解いていくと、西洋世界の哲学思想が壁画の中に鮮やかに浮かび上がってきますよ。

アテネの学堂

Step 1:時代背景―ルネサンスとは

まず、この絵が描かれた時代について確認しておきましょう。

ラファエロが活躍したのは、ルネサンス期のイタリアです。ルネサンス(Renaissance)とは、14世紀にイタリアで始まり、その後16世紀にかけて西欧諸国へ広まったとされる、古代ギリシャ・ローマの文化芸術の「再生・復活」を指します。この時代には、歴史、哲学、詩学などを含む古典教育の重要性が唱えられました。美術の分野では、古代ギリシャ・ローマの美術に見られる身体表現の美が追求され、ルネサンスの興隆に大きな影響を与えていきます。

ルネサンス以前の中世の美術はキリスト教を中心としたもので、神を崇敬するための芸術でした。美を追求するというよりはむしろ、文字を読めない大衆にキリストの生涯や教えを学んでもらうための美術が主流だったのです。モザイクで作られた壁画や、ステンドグラス、また、遠近法を用いない平面的な絵画が制作され、単純明快で平易な表現がされていました。

14世紀ごろになると、人々に精神的な余裕が生まれました。ヒューマニストたちは学びに貪欲になり、自我の意識が目覚め、その目覚めは時代の大きなうねりとなり、人々の世界観に変化をもたらします。人々の意識は、社会の一員、教会の一員という、いわば宗教を中心に据えた強力な価値観から脱し、人間そのものが主役であり、尊重すべきは一個人の人間性であるという世界観へと、大きく変容を遂げていったのです。

Step 2:作家―ルネサンス三大巨匠/完璧なアーティスト、ラファエロ

次に、ルネサンス時代のアーティストと、「アテネの学堂」を描いたラファエロに注目しましょう。

中世時代のアートは宗教中心ですので、その作品を作る作家は「無名(anonymous)」でいるのが当たり前でした。しかし、「芸術のための芸術(art for art’s sake)」が生まれたルネサンス期からは、次第に名声や知名度を気にし始める作家も現れ、作品に「サイン(signature)」を入れるようになりました。そのような中で、15~16世紀に三大巨匠、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci)、ミケランジェロ(Michelangelo)、ラファエロが誕生します。

ラファエロは三大巨匠のうちで一番若く、聡明であり、皆から慕われ、ローマ教皇にも愛されていた好青年であった、と当時の伝記に記されています。「先輩」であったレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロの2人のような革新的なタイプではなかったのですが、若干37歳で亡くなったラファエロは死後、「完璧なる」ルネサンス・アーティストだと称賛されました。それはなぜなのでしょうか。

それは、ミケランジェロが「感情(emotions)」に訴え掛けるような芸術を創造していたのに対し、ラファエロは「知性(intellect)」に訴え掛ける絵画を制作し、当時のヒューマニストたちの共感を得ていたからです。

調和の取れた構図と明快な色彩、全体的に上品さが漂う描写を得意としたラファエロ。彼の作品の中でも、今回取り上げる「アテネの学堂」こそ、ラファエロの卓越した芸術的センスをパーフェクトに具現化した、彼の全作品中の頂点に立つものだと言われています。

Step 3:作品―「アテネの学堂」/プラトン派かアリストテレス派か(Platonist or an Aristotelian)

1508年にローマ教皇(Pope)のユリウス2世(Julius II)は、ヴァチカン宮殿(Vatican Palaces)にある4つの部屋の内装装飾をラファエロに依頼しました。この4つの部屋の総称は「ラファエロの間(Raphael Rooms)」。現在、教皇庁の一部として公開されています。4つの部屋のうちの1つが「著名の間(Room of the Segnatura)」で、「アテネの学堂」はこの部屋に描かれた壁画です。この作品のテーマは「哲学(philosophy)」。

「アテネの学堂」には、古代の哲学者たちが描かれています。ひときわ目立つのが、中心に位置する2人です。彼らは古代ギリシャの哲学者、プラトン(Plato)とアリストテレス(Aristotle)です。アリストテレスはプラトンの弟子でしたが、師匠とは違った思想を持っていたため、この2人はよく比較されます。

2人の違いはそれぞれのジェスチャーに表れています。プラトンは天を指し、アリストテレスは地を指していますね。

プラトンは「真理は宇宙にあり(=目に見えないもの)」、つまり知識の源としての思想が天に由来することを暗示しています。それに対してアリストテレスは「真理は物質界にある(=目に見えるもの)」、つまり物理的確かさを暗示しています。ある考えや概念を証明するのに、プラトンは論理的思考と実験的思考で十分と考えていましたが、アリストテレスは直接的な観察や経験が必要だと考えていました。

簡単に比較すると、「プラトン=理想主義」対「アリストテレス=現実主義」と捉えられるでしょう。言い換えると、プラトンは「善を知っているのは、善い行いと同等だ」と考えていましたが、アリストテレスは「知っているだけでは足りない、実際に善い行いをしなくては善い人にはなれない」と確信していました。

教養ある英会話に挑戦!

美術作品「アテネの学堂」が描かれた時代背景、描いた画家ラファエロ、そして描かれている内容を簡単に紹介しましたが、いかがでしたか?次は、アートから学んだことを英語の会話に楽しく取り入れる方法を紹介します。

「アテネの学堂」の絵から、プラトンとアリストテレスの、よく対比される主張をお伝えしましたが、おそらく皆さんは「私はプラトンの考えに共感するな」とか「アリストテレスの方が正論でしょ」などといった感想を持ったのではないでしょうか?実は、この2人の対立する考えは、西洋思想において非常に重要な位置を占めています。なぜなら、極端な話、誰もがプラトン派かアリストテレス派の2つのタイプに分けることができるからです。

私はアメリカの大学で学んでいたときに、「あなたはプラトン派(=理想主義者)?それともアリストテレス派(=現実主義者)?」という話で盛り上がったことがあります。このような話題は小難しいわけではなく、お互いに性格を知ることができる面白い会話になることが多いのです。

Are you a Platonist or an Aristotelian?

あなたはプラトン派、それともアリストテレス派?

例えばこんなふうに答えることができます。

I’m a Platonist since I’m a very spiritual person.

私はとてもスピリチュアルな人間なので、プラトン派だと思う。

I must be an Aristotelian since I work in the IT field.

IT系の仕事をしているので、私はアリストテレス派だな。

一般には、プラトンが芸術家や宗教家に影響を与え、アリストテレスは科学者や経済学者に影響を与えたとされています。

ルネサンスの芸術家で言うと、ミケランジェロはプラトン的思想を持っていました。それに対して、「アテネの学堂」で、容姿としてはプラトンのモデルとされているダ・ヴィンチは、芸術家というよりは科学者のようであり、思想としてはアリストテレス的だったと言えます。ちなみに私は完全にプラトン派です。誰がどっちかという話をし出すと、切りがありませんね!

プラトンとアリストテレスの思想をそれぞれ1文で表現すると、下のようになります。

Plato believed that reasoning and thought experiments were important to prove a concept.

プラトンは、1つの概念を証明するのに、論理的思考と実験的思考が大事だと考えた。

Aristotle believed that direct observation and experience were important to prove a concept.

アリストテレスは、1つの概念を証明するのに、直接的な観察や経験が大事だと考えた。

ついでに下の単語も覚えておくと、プラトンとアリストテレスの話をするときに使えます。

idealism 理想主義

realism 現実主義

なお、「プラトニック・ラブ」は、プラトンが語源ですが、意味は古代ギリシャの時代と現代では多少違っています。

リベラルアーツで、世界で活躍できる思考法を獲得

いかがでしたか?この限られた長さの文章では伝え切れなかったこともありますが、1つの絵画に込められている無限大のメッセージの一部を感じ取っていただけたのではないでしょうか。私たちは鑑賞者として、美術作品のメッセージをもっと深く、限りなく探っていくことができます。

作品が制作された時代やその作家、作品の内容について学ぶことで、私たちは作品の美的要素を純粋に、よりいっそう楽しむことができます。

併せて、異文化圏の言語であり、ビジネススキルとしても必要不可欠な「英語」で美術に親しめば、アート関連の英語表現が身に付くのはもちろんのこと、さらに一歩進んだ力も得ることができます。その力とは「グローバルな視点」。アート作品を自らひもといていくと、西洋的な思考や視点が身に付きます。それらを活用すれば、慣れ親しんだ日本的な思考に加えて、西洋的な見地からも物事を捉えられるようになり、多角的な視野を獲得できます。その力が、世界のビジネスエリートたちと対等にコミュニケーションするための土台になるのです。

アートを軸に「リベラルアーツ」を学ぶことは、多角的な視野の獲得につながります。リベラルアーツこそ、AI時代を生き抜き、グローバルパーソンとして世界をフィールドにビジネスを展開していく上で、必要不可欠です。このことを私自身、海外でビジネスに携わり、AI時代の到来を迎え撃つ者の一人として、痛感しています。だからこそ、リベラルアーツの重要性をお伝えしたいと強く思っています。

私が主宰するArt Allianceでは、創業以来の変わらない理念として、「西洋美術史」を軸として学ぶ「リベラルアーツ」を提唱し続けています。ヴィジュアルを通して、哲学、宗教、歴史、その他あらゆる知識と教養を身に付けることができ、同時に美的センスも磨かれます。さらに、英語という言語を通して学ぶことにより、あなたの世界は無限に広がるのです。

全4回でお届けした「アートでビジネス力UP」の連載。変化の激しい時代を生き抜くには、「アート力」と「英語力」が必要だということがご理解いただけましたら幸いです。ぜひ、学び続けながら、「考えて、問う」グローバルパーソンになるべく、ご一緒に飛躍していきましょう!

リベラルアーツを学べる本と講座

リベラルアーツを学んでグローバル教養力を身に付けるための、宮本由紀さんの本(共著)と講座を紹介します。

海外のビジネスエリートとアートを語れるようになる本

英語でアート!

英語でアート!

 

「自分軸」を身に付けるための講座を開催

Art Alliance(アート・アライアンス)では、英語とリベラルアーツを両方学べる多様な講座が開催されています。

宮本由紀

文:宮本由紀

Art Alliance代表。「英語でアート」(西洋美術史、美術英語)講師。国内外で展覧会を企画。 ヒューストン大学美術史学科卒(学士号)、セント・トーマス大学大学院リベラル・アーツ(美術史)科卒(修士号)、ヒューストン美術館ヨーロッパ美術部門インターンシップを経て、同美術館リサーチライブラリー勤務。日米アーティストのエージェントも務める。共著に『英語でアート!』(マール社)。

http://www.artalliance.jp/

https://www.facebook.com/artalliance.tokyo/

編集:GOTCHA!編集部