「子どものケンカみたいだ」と言われた大統領選を勝ち抜いたドナルド・トランプ氏。彼のスピーチを聞いて「なんか、簡単な英語じゃない?」と思った人も多いかもしれません。それもそのはず、実はトランプ氏が話す文法は小学生レベルだったんです!トランプ氏のスピーチ力と、英語学習に使えるかどうかを、現役英語講師が考察します。
目次
トランプ氏の英文法は小6レベル
Make America great again.
「アメリカを再び偉大な国にしよう」
次期アメリカ大統領となったトランプ氏が、選挙キャンペーン中によく用いたフレーズです。
make O C「OをCにする」という非常にシンプルな文法ですよね。
実はトランプ氏が選挙キャンペーン中の演説で用いた言葉は、全体的に難易度が低いのです。
それを数値で示すのが、アメリカのカーネギー・メロン大学の言語テクノロジー研究所による、以下の研究結果。右端、赤枠で囲んだものがトランプ氏の数値です。
※MOST PRESIDENTIAL CANDIDATES SPEAK AT GRADE 6-8 LEVELより引用。赤枠はGOTCHA!編集部が追記。
研究結果によると、トランプ氏の文法(Grammatical)は小学校6年生レベル、ボキャブラリー(Vocabulary)は8年生に届かないレベルだと言います。
※8年生=日本の中学2年生に相当
しかし実際のところ、ご覧のとおり歴代の大統領や他の候補者も、5~8年生レベルの文法を使っていることがわかります。選挙スピーチはわかりやすさ重視で、なるべく平易な文章を選んでいるんですね!
ただ、この表の中でも比較的トランプ氏の文法とボキャブラリーはレベルが低いことがわかります。
また選挙中の発言には、文法の間違いも見受けられました。複数・単数の違いや、単語の使い方など、間違った使い方をしていることもあったのです。ネイティブスピーカーも、そんな簡単な間違いをすることがあるんですね。
しかし最終的には、トランプ氏が勝利。結果論的に考えてしまえば、正しい英語を話すかどうかは、あまり影響しなかったということになりそうです。
英語のレベルの低さは戦略?それとも…
(1)ターゲットに刺さる効果的な言葉の使い方
選挙キャンペーン中の英語レベルを低くしているのは、意図的なものだと思います。
日常生活でトランプ氏がどういうレベルの英語を話すのかは知りませんが、少なくとも選挙中は戦略的に簡単な言葉を使ったのではないでしょうか。
トランプ氏の中心的な支持層は高卒以下の白人労働者層でした。そういった人々が抱える強い不満を、トランプ氏が誰にでもわかりやすい言葉で代弁したのです。それも、かなり過激な言葉を使って。
(2)スラングを使った過激で型破りなフレーズ
朝日出版社の『[生声CD&電子書籍版付き] トランプ演説集』には、CNNが伝えたトランプ氏の過激発言や演説が音声とともに収録されています。CNNが伝えた過激発言より、一部ご紹介いたします。
I was nice. “Oh, take your time.” The second group, I was pretty nice. The third group, I’ll be a little more violent. And the fourth group, I’ll say, “Get the hell out of here!”
私は礼儀正しかった。「ああ、どうぞごゆっくり」と。2番目の集団にも、まあまあ礼儀正しかった。3番目には、もう少し乱暴になるだろう。そして、4番目には、こう言うだろうね、「とっととうせろ!」と。
(トランプ演説集p10、11より引用)
トランプ氏を批判する集団に対する、自身の対応を振り返る発言です。
“the hell” は直訳で「地獄」という意味のスラングで、上品な言葉ではありません。しかしそういった過激な言葉を使うことで、不満を持つ人々を巻き込み、支持者を拡大していったのでしょう。
過激発言は「何を言うか気になる」という気持ちを喚起します。トランプ氏はテレビ番組にホストとして出演していた経験を持ち、ご存じの通りビジネスでもやり手です。やり方はどうであれ、人が興味を持つような話し方を知っている点が強みなのです。
過激発言の前に、こんな前置きをしていたこともありました。
Can I be honest with you?
正直に言おうか?
(トランプ演説集p20、21より引用)
日本でもそうですが、”honest” ではないように見える政治の世界と比較し、包み隠さず正直に自分の気持ちを言ってしまうトランプ氏が、魅力的に見えた人もいたことでしょう。
「正直に言おうか?」と聞かれれば、誰だってその先が気になります。このように、発言の中に「人を惹きつけるテクニック」がちりばめられているのです。
(3)自らを代弁者と名乗り、不満を解消するヒーローとなる
I am your voice.
私はあなた方の代弁者です。
トランプ氏はNomination Acceptance speech(指名受諾演説)で、2回もこのフレーズを発言しています。
このように言うことで、支持層である強い不満を持つ人々を巻き込み、その不満を解消するヒーロー的な立ち位置に自分を置いたのです。
あくまで押し付けではなく、自分は代弁者だと名乗ったことで、人々自身がトランプ氏を支持するという行動を上手く促していると思います。
これもまた平易な言葉で語られているのが、ポイントですよね。日本人の中学生にもわかるフレーズで、難しいことを考えることなく、スッと頭に入ってくるのです。
英語教材として、トランプ氏の演説は使える?
筆者は英語講師をしていますが、「英語学習教材として、トランプ氏の発言や演説を授業で扱うかどうか」を聞かれたとしたら、答えは “No.” です。
たしかにトランプ氏の使う英語は難易度も低く、日本人が英語を学ぶためにリスニングやリーディング教材として使うことも可能でしょう。
しかし、私自身がもし授業で使うとなると、以下のデメリットが挙げられます。
- 文法的でない表現やスラングが含まれること
- 聞いていてマイナスな気持ちになる部分があること
発言内容の好き嫌いがわかれますから、授業で使うのはちょっと難しいですね。特にテレビやラジオでの発言、討論会での発言は、教材には使わないでしょう。
ただ、指名受諾演説や勝利演説は、英語学習者にとって聞いてみる価値はあると思います。
声質や特有のなまりによってちょっと聞き取りづらいところもありますが、語彙も文法も中学生レベルなので、チャレンジしやすいです。
私だったら、授業では扱わなかったとしても「興味があれば、リスニングしてみるのが良いですよ」とアドバイスするでしょう。
この2つの演説の英語原文、和訳、単語解説、音声が収録されているのが、『トランプ演説集』です。トランプ氏の発言に興味がある方は、聞いてみるのが良いでしょう。
勝利演説に関しては、リスニングするだけで良ければ、Youtubeでも見ることができます。次期アメリカ大統領の演説ですから、ぜひ一度聞いてみてください。
まとめ
今回のアメリカ大統領選挙におけるトランプ氏のスピーチを見てみると、そのやり方が政治家として理想的だったかどうかは置いといて、人を惹きつけるスピーチの方法を目の当たりにしたように思います。
文法のミスが多いことや、子どもっぽい英語を話すという批判も多いトランプ氏ですが、せっかくこの瞬間に英語学習をしているのなら、一度演説は聞いておくのが良いかもしれませんね!
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