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現代アメリカ文学の旗手に聞く、小説を書くためのアプローチ4種

英語で小説を書いてみよう

物語や小説を自分で書く。それも英語で。とてもハードルが高そうに見えますが、この本を読めば挑戦したくなるかもしれません。英文学を愛するライターの竹野愛理さんが、レアード・ハント氏の著書『英文創作教室』を紹介します。

英文創作教室 Writing Your Own Stories

英文創作教室 Writing Your Own Stories

 

『英文創作教室』はどんな本?

『英文創作教室』は、いわゆる英語学習本とはひと味違うものです。本書の編訳者である柴田元幸氏は、冒頭で次のように述べています。

Many books show you how to write English correctly. They show you how to write properly, naturally, without making too many of errors that non-native speakers are prone to. This book is different. This book encourages you to write your own stories in English.

 

英語の正しい書き方を教えてくれる本はたくさんある。適切で、自然な、外国人が犯しがちな間違い少ない英語を書くための指南書はいくつもある。でもこの本は違う。この本は、あなたが自分の物語を英語で書くことを後押しする。

そう、この本は、単に英作文の書き方を教えるものではなく、「英語で物語を書くこと」を薦める本なのです。先生を務めるのは、現代アメリカ文学の旗手、レアード・ハント氏。

受講者は、アメリカ人4人、日本人4人の計8人。彼らが、ハント氏の「英文創作教室」を受講するしているというスタイルです。

まず、ハント氏の指針に従って受講者が英語で物語を書き、その作品に対してハント先生がアドバイスや感想を述べます。受講者はアドバイスに従って改稿し、最後にまたハント先生からコメントをもらいます。

受講者が書いた小説の初稿、それに対するハント氏のアドバイス、改稿された小説、改稿に対するハント氏のコメントと、教える側、教わる側が書いたものが全て掲載されています。

初稿と改稿の違いや、ハント氏のコメントは、初めて英文創作に挑戦する人だけでなく、英文を書くことに慣れた人にも参考になりそうです。

物語を書くための4つのアプローチ

小説を書くためのアプローチ

英語で物語を書くこと自体が難しそうなのに、いきなり「自由に書いてみなさい」と言われても書きづらいものです。

そこでハント氏は、物語を書くための4つのアプローチを提示してくれています。

Describe what you saw after you got up today.

1つ目は、「今朝起きてから目に入ったものを描写しよう」。

まずは、目の前にある景色やモノ、人物と、それを見て何を思ったか、その描写から始めてみようというものです。「世界はとても豊かだ。この世界を面白くするためにパリへ行く必要はない」とハント氏。特別な体験をしなくても、物語は書けるものです。 

②Stories from pictures.

2つ目は、「写真から物語を」。

1枚の写真を見て、それにまつわる思い出や想起される未来のことを、物語に書くというもの。選んだ写真を注意深く見て、そこにあるもの、ないものについて、想像をめぐらせてみましょう。

③Your life, your experience, your story.

3つ目は「君の人生、君の経験、君の物語」。

自分のこれまでの人生の中で起こった、印象的な出来事をもとに創作するというもの。また、家族や友人など、ほかの人の人生を語ることもまた、それを目にしている自分の人生を語ることになります。

④Writing after tragedy.

最後は、「悲劇のあとに書く」。

戦争、大きな自然災害、親しい人の死など、私たちの人生には多くの悲劇が待ち受けています。そのような体験をしたあと、物語を書くというのが4つ目のアプローチ。

「直接的か、間接的か、即座にか長く時間を置くか、それを決めるのは君だ」とあるとおり、自分が「それについて書きたい」と思ったタイミングで書くのがいいようです。

受講者は何を書いたか

ハント氏の授業を受けた受講生は、どんなものを書いたのでしょうか。

本書には、8名の受講者の作品が掲載されています。どれも魅力的ですが、私が特に気に入ったのは、田辺恭子氏の『雨』という作品です。

この作品は、先ほど紹介した4つのアプローチの1つ目、Describe what you saw after you got up today に基づいて書かれたもの。雲行きが怪しくなってきた街や人々の様子から、雨が降り出すまでの、短い時間を描写した作品です。

Menacing shades of dark clouds have been looming over high-rise buildings for well over an hour.

 

幾重にも重なった不穏な黒雲が、優に一時間以上前から高層ビルの群れにのしかかっている。

この書き出しからは、暗く重い雰囲気が伝わってきます。

続いて、戸惑う人々や街の様子が描かれ、黒雲がさらに濃く立ち込めてゆくさまを丁寧に物語っています。そしてついに雨が降り出します。

And then comes the downpour. At first, it is a very loud and impolite pattering as if a giant starts dancing like crazy over your head.

 

そして土砂降りの雨がやってくる。はじまりは、とても騒々しく無作法なバラバラという音で、まるで巨人が頭の上ででたらめに踊り出したかのようだ。

激しい雨の様子が描かれ、その情景が目に浮かぶようです。

この初稿に対してハント氏は、自分が急な土砂降りに遭遇したことに触れ、彼女の表現を次のようにたたえています。

I love how you are able to use just a few words to evoke what we so often feel when nature erupts: that it is acting with conscious intention.

 

自然が一気に変容した際にしばしば私たちが感じる思い―自然がはっきり意図をもって行動しているという思い―をわずか数語で首尾よく喚起させているところがすばらしい。

ほめる一方で改善点も示していて、具体的なアドバイスをしているのも本書のポイントです。

In fact, I find your straightforward observations so convincing that I would like to see more of them in the piece. 

 

さらに言うと、君の明快な描写の数々はとても真に迫っているので、もっとあったらいいと思う。

「十分に見事な作品だけれども、もう少し人々の様子を詳しく語ってみてはどうか」と提案していますね。

改稿された田辺氏の作品は、人々のあわただしい様子や、具体的な人物像が追加され、よりリアルなものに変化しました。

他の7つの作品も、ハント氏のアドバイスを受けたあとに大きく変化しています。初稿と改稿を読み比べていると、さまざまな発見があると思います。

『英文創作教室』は何から生まれたか

英文創作教室

本書は、東日本大震災のあとに福島県郡山市で実施されたあるプロジェクトから誕生しました。2013年、14年、15年の3年間、毎年2日間行われた「ただようまなびや」です。

この「まなびや」では、「自分の言葉を発信すること」について考えるためにたくさんのワークショップが開かれました。「まなびや」の校長である作家の古川日出男氏は、この学校を始めた目的を次のように述べています。

私たちはどうしたら「自分の言葉」を持てるでしょうか。2011年3月11日の東日本大震災の発災後、たとえば福島県はただひとつの大きな悲劇に見舞われたかのように語られています。実情はそうではありません。それぞれの立場で、みんなが、それぞれの暮らしのために日々を過ごしている。そこには前向きな戦いもあれば後ろ向きの苦闘もあるし、また、数々の小さな喜びすらあります。こうした当たり前のことを伝えるためには、私たちひとりひとりが「自分の言葉」を発信できなければなりません。そのために開校される文学の学校が、この『ただようまなびや』です。

「ただようまなびや宣言」より

「ただようまなびや」には、作家の村上春樹氏や川上未映子氏、書評家の豊崎由美氏などの多くの文学関係者が参加。レアード・ハント氏、柴田元幸氏も、2015年に講師として「英語で物語を書く」というワークショップを担当しました。

この講座を1冊にまとめたのが本書。「英語で物語を書く」方法だけでなく「自分の言葉で発信する」方法も伝えようとしているのです。

これらの背景を知らずに本書を読んでも、十分に楽しむことができるでしょう。しかし、これらのいきさつを知ってから読むと、ハント氏が示した4つのアプローチも、それに基づく8編の作品も、また違ったものに見えてくるのではないでしょうか。

英文を読み、書いてみよう

本書の訳者である柴田元幸氏は、前書きにおいて、以下のように語っています。

If you are interested in creative writing, especially in English, read this book. If you are not, read it anyway and become interested. Either way, it will be a fun experience, and you’ll have learned a lot by the time you finish.

 

自分の言葉で書く、ということに――特に英語でそうすることに――興味がある人は、ぜひこの本を読んでほしい。興味がない人も、読んで興味を持ってほしい。どちらにしろ楽しい経験になるだろうし、読みおえるまでに、ずいぶんいろんなことを学んでいると思う。

本書は、左ページに英文、右ページに和訳を掲載する対訳形式になっています。和訳だけを読んでも十分楽しめるので、日本語でも英語でも「自分の言葉で物語を書きたい」と考える人にとっては読んでみる価値があるでしょう。

また、「実際に英語で物語を書くのは難しい」と思う人は、ハント氏や受講者が書いた作品を英語で味わっているのもおすすめです。

中・上級者なら、4つのアプローチに基づいて「物語を書くこと」に挑戦してみてはいかがでしょうか。ときには「学習」から離れて英語の世界を楽しむことも、英語と長く付き合い続ける秘訣かもしれません。

英文創作教室 Writing Your Own Stories

英文創作教室 Writing Your Own Stories

 

竹野愛理

文:竹野愛理(たけの あいり)
文学と食とイギリスを愛するライター。学習院大学大学院修了。大学院では英文学を専攻し、どっぷりと英語の世界に浸った経験あり。好きな作家はジェイン・オースティンとカズオ・イシグロ。ネイティブのようにすらすら英語の小説を読めるよう、訳せるようになるために日々英語を勉強中!

編集:川浦奈遠子