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but, bat, bot はどれも「バット」?

batの発音は「バット」でいいの?

「発音が難しいから英語を話すのは苦手…...」ではもったいない! 過去4回にわたって、英語の子音に関するお話をしてきたこの連載ですが、今回は母音にフォーカスを当てます。日本語で母音といえば、「あいうえお」ですが、英語ではどのようなものがあるのでしょうか。第5回は、「日本語の『あ』に聞こえてしまう英語の母音」についてお話します。

but, bat は両方とも「バット」でいいの?

みなさんは、次の英文を英語らしく読むことができるでしょうか。

You can hit the ball with it, but it’s not a bat.

(それでボールを打つことはできるけど、バットではないよ)

後半の“but it’s not a bat”の部分ですが、「しかし」を意味する but と「(野球などの)バット」を意味する bat、一見すると似ている単語が続けて登場しています。この2つの単語を正しく発音することができますか。まずはお手本を聞いてみましょう。

but

bat

ふたつの単語はみなさんの耳にはどのように響きましたか。よく耳をすませて聞いてみると、どちらも同じような「バット」とは聞こえなかったはずです。この2つの単語は真ん中の母音の部分が違う音として発音されています。では、それぞれの母音の特徴をつかんでみましょう。

ねちっこいbat

bat のaにあたる母音を発音記号ですと[æ]と書きます。英語ではaの綴りでされることが多い母音で、頻繁に出てくる音なので覚えておきましょう。私が中学高校生にこの発音を教える時は、ねちっこい「あ」と呼んでいます。ふざけているような名前ですが、耳を済ませてこの発音を聞いてみると、わりとイメージしやすい表現だと思いませんか。

猫の鳴き声を思い出してみましょう。猫は日本語では「ニャ〜」とか「ミャ〜」と鳴くとされていて(英語ではmeow)、この猫の鳴き声の母音の部分は、なんとも耳に残るような「ねちねちした音」だと思いませんか。まさにこの母音が英語の[æ]に近く、[æ]の発音を聞くと、私は猫の鳴き声を思い出してしまいます。そのため、そこからイメージされる「ねちっこい」という表現を使っているのです。もちろん生徒達に強いインパクトを残したいという理由もありますが……。

「え」と「あ」の中間

この[æ]の音を説明するときによく言われるのが、「『え』と『あ』の中間」という表現です。これがどういうことを示しているか理解するために、以下の練習をしてみましょう。

練習1

「えーーー」と発音したまま、声を切らさないで「あーーー」の発音に移してみましょう。さらに、そのまま「え」の発音をめざし、今度は中間の音である[æ]で止まってみましょう。発音する際は舌の中央付近に力を込めながら発音してみましょう。

【えぇぇ… →  æ → あぁぁ… →  æ】

舌を前のほうにして発音するとうまくいくことが多いのですが、仮にうまくできなくても、あまり気にしないでください。母音の発音は子音よりも個人差があり、誰もが同じように発音しているとも限りません。聞き手側によっては、時に「あ」のように聞こえ、時に「え」のようにも聞こえてきます。最初は、なんとなく「え」と「あ」の中間音のようなものが発音できていればよしとしましょう。

さて、なんとなく[æ]の音が見つかったら、その音を使って以下の練習に取り組みましょう。

練習2

[æ]の発音(下線部)を意識して以下の英語を読んでみましょう。1回目はゆっくりと、2回目は普通の速さで発音してみましょう。

1.ant

2.bat

3.Alice can’t imagine the reason why that animal sat on that cat.

3.は少し難しかったかもしれません。「ねちっこい『あ』」の特徴がつかめたでしょうか。

カオナシのbut

では次に、but はどうでしょうか。もう一度この単語の発音を聞いてみましょう。

but

さきほどの「ねちっこい『あ』」と比べて、どのような音に聞こえましたか。

実は、特徴がつかみづらいのがこの母音の特徴といえます。発音記号ですと[ʌ]です。小指を口に加えた時にひらく程度に口を開き、舌をリラックスさせて発音します。

これが何に似ているかとあえて言うならば、宮崎駿監督の作品『千と千尋の神隠し』に出てくる「カオナシ」というお化けの声に似ているかもしれません。どのような声だったか忘れている人もいるかもしれないので、この母音の部分だけ切り出した発音を聞いてみましょう。

[ʌ]

どうです、カオナシの声を思い出せたのではないでしょうか。カオナシは自分の気持ちを表現するのが苦手なお化けです。この母音も特徴がつかみづらいので、とりあえず「カオナシの『あ』」と呼ぶことにします。

練習3

[ʌ]の発音(下線部)を意識して以下の英語を読んでみましょう。1回目はゆっくりと、2回目は普通の速さで発音してみましょう。

1.cut

2.study

3.Come to the countryside for a wonderful lunch this coming Sunday.

この「カオナシの『あ』」はuの綴りでされることが多い発音です。ぜひ練習を重ねてみてください。

テキトウなbut?

さて、but の発音に関してはカオナシの話で終わりではないのです。butは単独で発音したり強調して発音したりする場合は、先ほど説明したような特徴をもって発音されるのですが、日常的には他の単語と一緒にすばやく発音されることが多いのです。ここで、最初に出てきた英文の発音を聞いてみることにしましょう。

You can hit the ball with it, but it’s not a bat.

(それでボールを打つことはできるけど、バットではないよ)

さきほど説明したような「カオナシの『あ』」というよりも、速く発音されているためか、ずいぶんとぞんざいな発音に聞こえたのではないでしょうか。次の単語のit’sとあたかも合体したて、「バリッツ」ように聞こえてしまうのもbutの発音の特徴です。このようなbutの発音の母音は、日本語「あ」でもない、「い」でもない、「う」でもない、「え」でもない、「お」でもない、きわめてあいまいな音です。発音記号では[ə]のように書きますが、「あいまい母音」と呼ばれることもあります。アクセントがなく、弱く発音されるところにれる母音です。この母音について詳しくは別の機会にお話できたらと思いますが、英語のリズムに関係してくる大切な母音です。

練習4

以下の英文を、お手本を聞きながら、1回目はゆっくりと、2回目は普通の速さで読んでみましょう。

1.You can hit the ball with it, but it’s not a bat.

(それでボールを打つことはできるけど、バットではないよ)

2.You may know his mother, but I don’t know her.

(あなたは彼のお母さんを知っているかもしれないけど、私は知らないのよ)

3.But you said you would do it!

(だけど、あなたは自分がやると言ったでしょ!)

bot はボット?それともバット?

botはロボット

さて、bat はねちっこく、そして but はカオナシ、またはテキトウに発音する、といったことをお話ししてきましたが、みなさんは bot という単語を見たことがあるでしょうか。bot は最近使われるようになった言葉で、その語源は robot からきているそうです。TwitterなどのSNSで、コンピュータのプログラミングにより定期的にメッセージを投稿する自動配信システムのことを指しています。日本語では「ボット」と呼ぶことが多いようですが、英語ではどのように発音すればいいのでしょうか。

米・英で異なるbot

bot の発音は、ざっくり分類すると、アメリカとイギリスの発音で聞いた印象がだいぶ異なります。多くのアメリカ人が発音した場合は、「バット」のように聞こえ、多くのイギリス人が発音した場合は「ボット」のように聞こえることが多いようです。bot、God、hotのようなoの綴りを使った単語の母音同様にこのようになる傾向があります。

「あくび」「うがい」のbot

米・英の bot の発音で共通しているのは、口を大きく開け、舌を喉の奥のほうに引っ張って発音をしているということです。それはあたかも、「あくび」や「うがい」をしている時の舌の状態に似ています。

そして、米・英で大きく異なるのが、多くのアメリカ人は唇を丸めずに発音をしているのに対して、多くのイギリス人は唇を丸めて発音し、結果として、アメリカ英語では「バット」、イギリス英語では「ボット」のように聞こえるということが多いようです。唇を丸めずに普通にあくびをしてみるとわかりますが、「あ~ぁ」というように「あ」に聞こえる音が出てきます。一方唇を丸めながらあくびをしてみると「お~ぉ」のように「お」に聞こえる音が出てきます。ちなみに発音記号は、アメリカ英語の母音が[ɑ]、イギリス英語の母音が[ɔ](または[ɒ])となります。辞書によっては多少表記異なるので注意してください。

以上のことを意識して、以下の練習問題に取り組んでみましょう。

練習5

お手本を聞きながら、以下の英語を発音してみましょう。1回目にアメリカ英語、2回目にイギリス英語に挑戦してみましょう。

1.bot

2.God

3.hot

4.not

5. God is not a hot bot. 

(神様はイケてるボットなんかじゃないんだぜ)

アメリカ英語とイギリス英語、どちらで発音してもよいですが、両方を混ぜてしてしまうと、聞いている人が混乱するかもしれません。話す時は、どちらかに統一して使っていくといいでしょう。

まとめ

それでは、今回学んだことをまとめてみましょう。

●bat は「え」と「あ」の中間の、ねちっこい音を意識
●but は口を少しだけ開けて舌をリラックスさせて、カオナシのような音を意識
●but はすばやく発音するとテキトウな発音になり、後ろの音と合体しやすい
●bot は「あくび」と「うがい」の舌の位置を意識し、米音・英音で聞いた印象が異なる

さて、いろいろと説明してきましたが、これらは私が普段中学高校生に発音を教える時に、実際に伝えている内容です。実際の母音の発音にはもう少しバリエーションがあり、今回私が述べたような説明とは若干異なる点もあるかもしれません。

しかし私は、母音を発音する上で最も大切なことは、「発音する人自身が他の母音としっかり区別をして使う」ことだと思っています。発音する本人がしっかりと区別をして使っていれば、聞いている人はだんだんと話している人の音声の特徴をつかめるようになってきます。ところが、区別をしていないとそういうわけにはいきません。お手本の母音と完全に一致するような発音ができなくとも、自分の中でしっかりと区別して使っていくことが大切です。

今回は母音について少しだけお話ししましたが、肩に力を入れすぎることなく、まずは「区別さえしていけばいいのだ!」という気持ちで発音の練習に取り組んでもらえたらと思います。

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文:久保岳夫
早稲田実業学校教諭。専門は英語教育学、英語音声学。学生時代に英語の音声に関心を持ち、英語教師の道へ進む。日本人英語教師として理想の英文朗読を研究している。趣味は英会話、囲碁、ランニング。資格はIPA Certificate of Proficiency in the Phonetics of English(英語音声学技能検定)、英検1級など

編集:江頭茉里